近親相姦、聖書批判、梅毒などタブーに触れてきた
19世紀にヨーロッパで活躍した劇作家イプセン。"近代演劇の父"と称され、代表作には『ペール・ギュント』『人形の家』などがあります。当時のヨーロッパは勤勉、禁欲、節制、貞淑を特徴とするヴィクトリア朝的価値観の中にあり、イプセンの劇はスキャンダラスな作品と評価されていました。「幽霊』は1881年に発表された作品で、近親相姦、聖書批判、梅毒遺伝など、その頃の社会においてタブーとされる問題にあからさまに触れたため、問題作として非難の嵐にさらされました。しかし、現在では作品の真の価値が見直され、近代社会を象徴する傑作として世界中で上演され続けています。
舞台はノルウェイ西部のフィヨルドに臨む名士アルヴィング家の屋敷。
十年前に他界したアルヴィング大尉の功績を讃える記念式典の前日、牧師のマンデルスは、信仰に背を向けて生きる未亡人が、信仰深かった夫の名声に傷をつけていると非難します。
しかし未亡人は、夫の私生活が救いようのないほど堕落していたことや、一人息子オスヴァルのため世間にはそれを隠して生きてきたことを告白します。未亡人が愛のない偽りの人生を送っていたことを知り、牧師はショックを隠し切れません。そんな中、留学先のパリから帰国したオスヴァルが、女中レギーネとの結婚願望を打ち明けます。しかしレギーネは、故アルヴィング大尉が放蕩のあげく、当時の女中に産ませた異母兄妹だったのです...。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。