2024/7/12

スマホばかりで本が読めない...。なぜ仕事と読書の両立は難しい?現代人の"あるある"悩みに迫る。

「全身」をやめて「半身」で働く

もう1つのキーワードに、「半身(はんみ)」があります。「半身」とは、「さまざまな文脈に身をゆだねる」こと。「働きながら本を読める社会」をつくるために三宅さんは、「全身全霊をやめませんか」「半身で働こう」と読者に語りかけます。そうすることで、自分の「文脈」の半分は仕事に、もう半分はほかのことに使える、としています。

この「文脈」というワードも印象的でした。自分がこれまで生きてきた「文脈」があるように、他者にも、そして一冊の本の中にも「文脈」がある。こうした仕事以外の「文脈」を自分の中に取り入れることが大切で、それこそが「健全な社会」であると、熱く書かれています。

自分の知らなかったことがじつは現代の常識になっていると知り、衝撃を受けた経験はありませんか。そのつもりはなくてもシャットアウトしている「文脈」は、意外とあるのかもしれません。

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」に対する、「○○だから読めなくなる」「△△したら読めるようになる」という答えだけを知りたい読者にとって、本書は正直、じれったい構成かもしれません。全体のおよそ3分の2まで読んだところでようやく、核心にたどりつくからです。

ただ、今回の読書体験をとおして、なるほど、これが「ノイズ」を受け入れる、「文脈」を自分の中に取り入れる、ということなのだなと思いました。スマホでも何でも、視界に入っていても見ていない物事がいかに多いか、身につまされます。

忙しいとなかなか本を開く気になれないものですが、読みたい気持ちがないわけではないんですよね。仕事と読書の両立が気になって読みはじめたら、思いがけない展開が待っていて、読書の面白さを再発見できる一冊です。

(Yukako)

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆 著(集英社)

■目次

まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました

序章   労働と読書は両立しない?

第一章  労働を煽る自己啓発書の誕生――明治時代

第二章  「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級――大正時代

第三章  戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?――昭和戦前・戦中

第四章  「ビジネスマン」に読まれたベストセラー――1950~60年代

第五章  司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン――1970年代

第六章  女たちのカルチャーセンターとミリオンセラ――1980年代

第七章  行動と経済の時代への転換点――1990年代

第八章  仕事がアイデンティティになる社会――2000年代

第九章  読書は人生の「ノイズ」なのか?――2010年代

最終章  「全身全霊」をやめませんか

あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします

■三宅香帆さんプロフィール
みやけ・かほ/文芸評論家。1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。著作に『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術―』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『人生を狂わす名著50』など多数。

画像提供:集英社

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* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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