ゴミの延命はしたくない―。「傘レンタル」代表が失敗から学んだこと
結局「ゴミの延命」をしているだけだった
じつは最初から"リッチな傘"というわけではありませんでした。当初は、駅やお店にある"放置ビニール傘"をかき集めて始めようとしたのです。

(初期のアイカサ設置は駅ではなく店舗。ビニール傘からのスタートだった/本人提供)
「すぐにこれは失敗だなと気づきました。ゴミ同然のものはユーザーからすると借りたくもないですよね。古いビニール傘はより劣化もしやすく、メンテナンスも高くつきます。結局捨てることになって、我々は、ゴミの延命をしているだけだと気づきました」
駅や百貨店に営業するにあたっても、使用済みのビニール傘は大きな障壁でした。そこで「いいもの、長く使えるものを作ろう」と方向転換。現在の傘レベルに近い状態で、2018年12月にサービスインします。

(立ち上げメンバーたち/本人提供)
長く使える上質な傘を提供する。
一見、利益追求とは真逆に見えるこの方針には、丸川さんの理想が込められています。
それは「アイカサ」を自分の傘のように使ってほしいということ。
「アイカサ」は1回70円レンタルのほか、月額280円で2本まで使い放題というプランもあります。

(編集部撮影)
このプランを利用すると、気に入った傘を1本自分用に使ったうえで、外出先で突然の雨に出くわしてももう1本借りられます。
お気に入りの傘を確保しながらも、飽きたら別の傘にチェンジ! メンテナンスしてほしい時もスポットに返却。そして別の傘を借りる。そんな仕組みです。
「今は突発的な雨に対してのサービスが主ですが、アイカサの傘を自分用にすれば、壊れたら捨てる、ということがなくなります。もともと壊れにくい作りですし、定期的にメンテナンスすることで長期間使えるので、ゴミやCO2の削減につながるんです」
これは利用者にとってもメリットです。アイカサスポットがあれば、街中すべてが"自分の置き傘場所"になるのですから。たしかにこの手軽さは、世の中からビニール傘をなくすかもしれません。
最初に「リスクを取ってくれた人」がいたから生まれた

(意外にも1番最初の駅導入は福岡県。当時はアプリではなくLINEを使ってのサービス展開だった/本人提供)
まだ誰もやったことのないサービスを広げていく苦労は、どんなビジネスでも一緒。丸川さんに、立ち上げの時に一番難しかったことは?と尋ねると「相手に、事業としてうまくいくというのを理解してもらうこと」と返ってきました。
「理念は理解してもらえるんです。でも、これがうまくいくのか、ワークするのか、という懸念の払しょくは難しかった。続きそうにもないことには、誰も手は出したくないですよね」
それでも広がっていったのは、いくつかの鉄道会社が実証実験を経て導入したから。サービスがきちんと継続するのを見て、徐々に他の企業も「これは絵空事ではないぞ」と、前のめりになっていきました。

「僕の話を聞いてくださった鉄道会社やその関係者の方々、そんな方々が『リスク』をとってくださったから始められたと思います。その結果、今があります。すべてがうまくいったわけではないので、本当に感謝しています」
右も左も分からない時は、日本で1番雨の日が多い石川県金沢市にヒアリングにも行ったし、サービス開始後は飛び込み営業の毎日でした。ですが、辛いと思ったことは1度もなかったといいます。
「こうと決めたら進む」という猪突猛進タイプ。そんな丸川さんの周りには理念に共感する頼もしいメンバーが揃っています。
1回の授業がきっかけで友達、今はCTO

(増田誠さん)
会社の中核を成す1人、増田誠さん(26)に話を聞きました。「アイカサ」を運営する「Nature Innovation Group」のCTO(最高技術責任者)であり、スタート当初から丸川さんと歩んできました。もともとは、日本での大学の友達で、2年生の時、たった1回授業が一緒だったことをきっかけに親しくなります。

「丸川は学生時代から留学生交流会などイベントを企画して、『一緒にやろうよ』『手伝ってよ』と誘ってくれていました。そのどれもが、意味があることや誰かが幸せになることが多かったです。当時からアイデアマンだったんだと思います」
だからこそ、マレーシアにいる丸川さんからアイカサのアイデアを伝えられたときも「それはやりがいありそう」と二つ返事でOK。増田さんは、普通に就職することを考えつつも、「アイカサ」に乗ろうと思ったのです。

(「丸川と遊ぶと、バドミントンしようといったらずーっとバドミントン。ビリヤードしようとなったら毎日誘ってくるんです(笑)」(増田さん))
増田さんは丸川さんといると「いつも振り回されてばかり」と言います。「でも、向かうところがはっきりわかる人だし、ものすごくピュアだなとも。何より人を巻き込むのはうまいですよね」

(丸川は、熱い面や面白い面もあるけど、見た目に全然現れない(笑)(増田さん))
今でも社宅で共同生活をしている2人。ほかの社宅メンバーや社員全員、いつでも何でも話し合う関係は続いています。ある社員は言います。「まるでもうひとつの家族のようなんです」

(社員旅行のスノボにて/本人提供)

(コロナ前、社宅メンバーと一緒に/本人提供)
何も持たない丸川さんが最初に"頼った場所"

(100BANCHはJR渋谷駅新南口エリアにある)
「アイカサ」の仲間は、コミュニティやSNSを通じて集まってきました。
現在本社は、東京・代々木にありますが、スタートアップ当初は、渋谷区にある「100BANCH」という若い世代が集うワークスペースを活用していました。

(現在も出入りする丸川さん。この場所は「たまたま見つけた」と言いますが、日頃からアンテナを張っていた成果なのでしょう)
パナソニックとロフトワーク、カフェ・カンパニーが「100年先の世界を豊かにするための実験区」として2017年に開設した施設で、夢を持つ若者たちが、仕事場や意見交換の場、また先輩たちのアドバイスを仰ぐ場として利用しています。
「アイカサ」もこのコミュニティを活用し、仲間づくりやビジネスのアイデアを固めていきます。こういう場所を知っているのと知らないのでは、"人のつながり"含め、事業の推進速度はぐんと変わります。
ちなみに、今でもここに出入りし、卒業生として後輩にアドバイスを贈ることもあるそうです。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。