ゴミの延命はしたくない―。「傘レンタル」代表が失敗から学んだこと
駅を出たら突然の雨――。「ツイてないな」と思いながら買ってしまうビニール傘。家に着くと、何本も溜まっていて、さらにため息がでたり......。
こんな経験、皆さんもありますよね。
一方、最近は、駅に置いてある傘を、スマホをかざすだけで、さっと持ち出していく人もいます。
(編集部撮影)
これが日本初の傘シェアリングサービス「アイカサ」です。1本70円で24時間使えるレンタル傘。どこで借りて、どこに返してもいい。借りられるスポットは、駅や施設(ファッションビルの丸井やコンビニ、大学他)など、多岐にわたります。
SNSでは「本当に便利」「天気予報を見ていなかったから助かった」といった声も聞かれます。事業の立ち上げからわずか3年ですが、会員数は約24万人(2022年2月現在)にまで増えました。
(「アイカサ」を運営する「Nature Innovation Group」代表、丸川照司さん)
ですが、ここまで来るのはたやすい道ではありませんでした。
留学先で得た発想や、"ゴミ同然の傘"でのスタートと失敗、そしてコロナ禍が招いた大ピンチまで、まだ20代の若き経営者に、「アイカサ」の誕生秘話とこれからを聞きました。
マレーシアでの生活は刺激だらけだった
「アイカサ」の生みの親、丸川照司さん(27)が傘のシェアリングサービスの発想を得たのは、2017年秋でした。当時22歳のことです。
(マレーシア留学時代/本人提供)
丸川さんは、日本と台湾の両親の元に生まれました。こどもの頃はシンガポールで過ごしたこともあります。
日本の大学に進学するも、「発展途上の国で暮らして学びたい」「中国語も英語も使う国で語学も磨ける」、そんな思いからマレーシアに留学。
当時は、具体的に何を学びたいというよりは、日本とは違う環境で「世界の貧困の課題を解決するためにいろいろ経験する」という思いのほうが強かったそうです。
家庭環境で苦労した経験から、児童福祉に興味があったことも留学の後押しになりました。
実際、マレーシアでの生活は日本のそれとは異なり、刺激だらけでした。
「たとえば、日本より所得が低いことで起こる課題を目の当たりにして、『こうなればもっとよくなるんじゃないか』と、想像する機会をたくさん与えてもらいました」(丸川さん)
日本で消費される傘は年間1億本以上!
そんな折、世界では車や自転車のシェアリングサービスが広がっていきます。それを知った丸川さんは「傘でもできるんじゃないか」と、考え始めます。
というのも、あまり知られていませんが日本は大いなる"傘大国"です。
(イメージ)
日本国民の1人あたりの傘所有本数、ビニール傘消費本数は共に世界1位。毎年日本で消費される傘は年間約1.2億本~1.3億本(※1)。うち6割以上にあたる約8000万本(※2)がビニール傘です。
こんな日本の傘事情について調べれば調べるほど、「もったいない」「日本で必要なものこそ傘のシェアなのでは」という気持ちが強くなりました。
思い立ったらすぐに行動。留学先の大学も中退し帰国。SNSを通じて仲間を増やしながら、傘シェアのサービスインに向け動き始めます。
ビニール傘を買うより1本あたり約400円お得
「アイカサ」の使い方はとても簡潔で便利です。
必要なのはスマホとアプリ。駅や施設に設置されている「アイカサ」ボックスのQRコードを読み取ると、すぐに借りられます。
事前にクレジットカード等の決済情報の入力は必要ですが、初見でも、戸惑うことはないでしょう。
(スポットのQRをアプリに読み込ませる)
(傘をスライドするように引き出せばOK)
2022年2月現在「アイカサスポット」は関東圏の駅をかなり網羅しています(中部、関西、九州、中国・四国にもスポットはあります)。
山手線、西武新宿線、京王井の頭線、ゆりかもめは「全駅」。そのほかの各路線でも設置は進んでいます。
(編集部撮影)
好きなところで借りて、好きなところで返せる。1本70円だから、ビニール傘(500円前後)を買うより明らかにお得です。
便利なだけではありません。傘のクオリティにはもっと驚かされます。
大柄な男性でもすっぽり入れるほど大きく、柄や骨もしっかりした作り。聞けば、骨部分は暴風にも耐えられるグラスファイバーを使用しているのだとか。普通に買えば1本数千円は下らないでしょう。
(デザインも複数あり、レンタルものとは思えないほど凝っている/編集部撮影)
しかも、およそ週1回~月数回のペースで、専門の人がメンテナンスもしてくれます。つまり、常に綺麗な状態の傘を70円で好きな時に使えるんです。
(傘の取手にウィルスが付着すると不活性化する抗菌加工を施しているほか、メンテナンス時には除菌清掃も行う)
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。