辛酸なめ子の東京アラカルト
漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが注目する東京のお出かけスポットやイベントを紹介。辛酸さんならではの視点、現地でのエピソードに思わずニヤッとしてしまいます。
2019/3/ 1

意識と波動が高い書店「文喫」【辛酸なめ子の東京アラカルト#24】

いにしえの青山ブックセンターの面影を残す文喫のエントランス。カウンターがおしゃれです。

惜しまれつつ閉店した青山ブックセンター六本木店。その跡地に書店がオープンと聞いて喜んだのもつかの間、入場料が1500円と聞いて一瞬躊躇しました。でも煎茶やコーヒーが飲み放題と聞いて、三杯飲めばもとが取れるかも......と貧乏性的な考えが浮かんで、ついに行ってまいりました。

文喫」のコンセプトは「本と出会うための本屋」。まず、入り口のおしゃれ感に圧倒されました。受付で1500円払い、バッジを手渡されます。その裏側にはWi-Fiのパスワードが。そんなサービスを提示されたら、本を読みに来たのに結局Twitterを眺めてしまいそうです。でもここは教養を高めるため、本のみに集中したいです。

おしゃれで民度が高い図書館のような空間

一見、雑然と置かれているようで洗練されているように感じられるのは、本のセレクションが良いからでしょうか?

階段を少し上がると、本棚が並んでいました。台の上には、本がオブジェっぽく展示。棚は、アート、デザイン、ビジネス、文学、自然科学、宗教、コミックなどにジャンル分けされています。多すぎず少なすぎない冊数。

こちらの本を読みながらじっくり選ぶことができます。値段が高くてかさばる図鑑系も充実しているので、これを眺めればもとが取れる、とまたもや貧乏くさい考えが。ちなみに、読んだ本は返本台に置けば店員さんが戻してくれるという図書館のようなシステム。絶対持ってきた場所忘れそう、と思っていたのでありがたいです。

さらに階段を上がったところに、緑のじゅうたんの閲覧室がありました。電源もあるのでPCを開いている人もいます。この、一段上がったスペース、見たところ、ひときわ意識が高い人が集まっているようでした。洋書とか哲学書、専門書など積み上げている感じでした。畏れ多くて下の喫茶室へ。

カフェコーナー。ガラスで仕切られている中に行けば小声で会話できる感じです。

あまり大きな声で私語で話せない空気で、カップルの客が小声で会話していました。同行した人が、近くにいた友人(元警察官)を呼んだら、その人が過去の武勇伝を語り始め、近くのおじさんに咳払いされてしまいました......。会話はボリュームに注意が必要です。

意外と肉系が充実しています。こちらは友人が頼んだ「豚バラ煮込みのポークカレー」。980円で結構ボリューミーです。

店内には飲み物の他に食事も何種類かあります。1000円前後で、六本木ではコスパが高めです。海老ドリアやハヤシライス、ポークカレーなど意外にもガッツリ系。味も本格的でした。サラダボウルを頼もうとしたらこの日は売り切れ。文化系や草食系が集うと思うと、やはりサラダからなくなりそうです。

珈琲・煎茶はおかわり自由です。この中の本を一冊購入いたしました。いい出会いがありました。

数時間滞在し、吟味した中で一冊購入(中沢新一の文庫)。いい本と出会うことができました。居心地も良いというか、煩悩タウン六本木でここだけが聖域のような......。民度の高さと意識の高さが渦巻き、結界になっているようでした。夜の六本木で安全が欲しくなったら駆け込みたい「文喫」

知識と教養を身に着けたら、街を歩く享楽的な人々と差をつけられます。六本木が庭くらいの感覚で余裕を持って歩けそうです。

辛酸なめ子

1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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