意識の高さがうずまくApple新宿のセミナー【辛酸なめ子の東京アラカルト#15】
新宿に4月にオープンしたばかりのApple直営ストア。このお店ができたので、丸井1階がリニューアルされ、好きだった食べ物屋がなくなってショックでした。でもそんな心の穴を埋めてくれる充実した店舗だと期待しています。
調べてみると、こちらのApple新宿は次世代コンセプトショップのようです。街の人々が集いコミュニティが形成される場。Today at Appleなどのセミナーを行なう「フォーラム」などがあります。近所にApple Storeがあったら意味もなく入り浸ってしまいそうです。涼しいし、Wi-Fiがあるし、椅子もある。意識が高そうな店員のエネルギーを吸収することもできます。

Apple新宿店。スタッフの方々のグリーン系のTシャツが鮮やかで目を引きます。緑は豊かさを象徴する色です。
さらにありがたいのは、セミナーが無料ということ。Apple新宿のセミナーラインアップを見ると
「Basics:iPhoneとiPadの中級編」 「Photo Walks:光と影を効果的に取り入れよう」 「Kids Hour:Spheroで迷路にチャレンジしよう」
など、カルチャーセンターで習ったら3000円くらいしそうな項目が無料。
そんな中、手軽に受けられそうな30分のセミナー「Quick Start:Apple Pencilでスケッチを描こう」に申し込んでみました。結構満席になっているセミナーが多いので事前予約が必須です。

Today at Appleなどのセミナーが行われる「フォーラム」スペース。時間になると、前の方の席に受講者が案内されます。持っていない人はデバイスも貸し出されます。
大きなモニターの前には木の椅子が並んでいます。今回参加するのは8人。親子やカップル、一人客など。時間になったら、前の方にいた講師の若い男性が「The Show Must Go Onです」と、気合いを入れていました。さすが外資系、セリフもおしゃれです。
作品を描いてアンケートを提出するまでがセミナー
30分という限られた時間内で、「Procreate」というソフトの簡単な使い方から、パレットを使ってペンや鉛筆を選び描画する方法、Airdropで作品を提出するところまで学ぶという、かなり密度の濃いセミナー。しかも、モチーフは自分の顔です。
参加者は自分の顔を撮影し、レイヤーで上から描くことに。そもそもiPadでの自撮りの方法を把握しておらず、カメラの向きの反転法がわからなくて忙しい先生を呼び止めてしまいました。各生徒からの質問にも丁寧に答える先生。自分の顔写真は見苦しいので正直あまり描きたくないですが、レイヤーを重ねて、先生のおすすめ通り鉛筆を選択し、Apple Pencilでラフになぞっていくと、ちょっとおしゃれなタッチになりました。そして水彩の絵の具のブラシツールを選び、おおざっぱに着色。マガジンハウス系の雑誌に載っていそうなタッチになります。

自分の写真の上からスケッチ。iPadならラクにトレースできます。
周りを見ていると、素人でもそこそこいい感じに描けてしまうので、プロとして一抹の危機感を覚えましたが......。「髪の毛は毛先と根元をしっかり描いて、あとはラフな感じで」と、的確にアドバイスする先生。モニターに映し出された先生の作品に、描写力の高さが漂っていますが、どこの美大か気になります。きっとロンドンとかアントワープとか海外の美大とか出ていそうです。こちらのセミナーはとくに先生のプロフィールが公開されていないので気になります。
最後、一人一人作品をAirdropで転送し、講評。「すごくセンスを感じます」「目の色が印象的ですね」と、ホメて伸ばす話術。和やかな空気で拍手がまきおこりました。そんな中、小学生の娘さんに、ほうれい線くっきりで険しい表情の顔を描かれたお母さんが「悪意を感じる」とつぶやいて不穏な空気が若干漂いましたが......。
独学でiPadとApple Pencilを使ってきて、まだ知らなかったテクニックも教わって有意義な時間でした。ただ、その後、Appleから送られてきたアンケートには、講師の先生の評価についてのシビアな項目が。「お客様と理解しあうコミュニケーション力」「セッションの内容に関する知識レベル」「情報を明確に伝える能力」などいくつもの項目で、「良くなかった~非常に良かった」の5段階で答えるようになっていました。外資系のシビアさに身が引き締まる思いでした。もちろん全て5にしました。無料でここまで教えてくれたご恩は忘れません。

セミナーで自撮り写真を下敷きに描いたイラスト。他の参加者は皆さんもっとうまかったです。
1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。