「GINZA SIX、もう行った?」――このところそんな話題がよく出ます。4月20日に満を持してオープンした銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」。私も内覧の日と、オープン後の2回、訪問しました。
表参道ヒルズや渋谷ヒカリエ、東急プラザ銀座など都内のおしゃれ商業施設には慣れていたはずでしたが、GINZA SIXに一歩入って、燦然と輝く空間の広大さと高級感に圧倒されました。吹き抜けから各フロアのきらめきが一望できて、行ったことがないですがドバイのモールとかもこんな感じのではないかと想像。GINZA SIXも、海外からの富裕層の旅行者を対象にしているのかもしれません。セリーヌ、サンローラン、ヴァン クリーフ&アーペル、フェンディ、ヴァレンティノetc......錚々たるハイブランドが並んでいます。松坂屋銀座店の時よりも、かなり手の届かないステージです。
エレベーターもデザインされていて、内装もいちいち高級感があります。
思い出すと目頭が熱くなる松坂屋銀座店の風景。わりと人が少なくて、抜け感というか独特のユルさが居心地良くて通っていました。1階の、プチプラのFREE'S MARTという洋服屋で適当に買い物したり......。でもその空間が今やセリーヌとかサンローランです。FREE'S MARTは立地条件をムダ遣いしていたのかもしれません。GINZA SIXに入っているテナントはどれも勢いがある人気ショップばかり。松坂屋銀座店時代は、聞いたことがないマダム向けブランドが入っていましたっけ......。昭和感は一掃され、今はどこを見てもスキがないおしゃれさです。数十年後はこれらの人気ブランドも時代感が出てしまっていたりするのでしょうか ?
GINZA SIXはメンズも充実しています。気になったのは「HYDROGEN」というメンズ中心のスポーティなブランド。内覧日にはなんと藤原紀香さんからの花が。HYDROGEN、訳すと水素ですが、紀香さん、水素好きすぎます。
水素好きが一貫している紀香さん。世界は水素で満ちています。
サブリミナル的に消費が活性化しそうな空間
GINZA SIXは草間彌生推しが随所に見られ、巨大なカボチャのオブジェが吹き抜けに吊り下がっています。POPなのですがどこか不安感が芽生える形態。もしかしたら仕掛けているのかもしれませんが、エレベーターの扉のデザインがナナメだったり、デザインやアートが潜在意識に影響を与えます。意識下にかすかな不安を植え付けられ、それをなくすために、物を買ってしまいそうです。ゴージャスな消費によって心が満たされます。
松坂屋だった時の6Fの画廊フロアには草間彌生の絵画が販売されていました。GINZA SIXではさらにフィーチャーされていて、草間先生の根強さを実感。
デパ地下も洗練され、スイーツやお惣菜など高級な品がひしめいていました。お弁当が2000円、3000円したりして、でも見慣れると感覚が麻痺して、1000円台なら安く感じられてきます。オープン後に行ったら、プリンのマーロウや、クッキーのISHIYA GINZAなど、行列ができているお店や、売り切れの店も多かったです。またここで思い出されるのが閑散気味だった松坂屋銀座店のデパ地下。和田アキ子氏プロデュース、わだ家のカレーパンとか、完全菜食の店「健福」のお弁当とか、安くて量が多かったフルーツ店とかが脳裏をよぎります。さようなら昭和......そして新しい時代に追いつくためには、GINZA SIXの価格帯に合わせないとならないのでしょうか。フランク・ミュラースイーツショップで売られている1個2400円のマロングラッセを見て、一瞬、時が止まりました。
松坂屋時代のなつかしいデパ地下。ここでコスパの高いフルーツ盛り合わせを買うのが好きでしたが......。写真は2013年の最終日で一番混んでいた時です。
いつかGINZA SIXで堂々と買い物できるようになりたい......と、大人になっても初心に戻れるスポットです。
辛酸なめ子
1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。