2014/12/13

映画「イロイロ ぬくもりの記憶」/アンソニー・チェン監督に聞く

シンガポール映画「イロイロ ぬくもりの記憶」が12月13日公開される。昨年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)を獲得し、一躍注目を集めた作品。シンガポールの新鋭アンソニー・チェン(陳哲藝)監督は「小さなことに人間性が宿り、人に語りかける。社会の人間模様、人々の生きざまを描いていきたい」と語った。

チェン監督は1984年、シンガポール生まれ。現在はシンガポールと英国を拠点に活動している。「イロイロ」の舞台は90年代後半、アジア経済危機下のシンガポール。中流家庭に住み込みで働き始めたフィリピン人メイドと家族の物語だ。両親の不仲、父の失職などを背景に、メイドと少年の交流、家族の変化を描く。

今のシンガポールは大きく変わった。理解できない

──最初の長編作品でメイドをテーマにした理由はなんでしょうか。

私は子供時代、メイドがそばにいた期間が長かった。4歳から12歳まで。成長過程で重要な時期、長い時間を一緒に過ごした。シンガポールでメイドを雇うことは、別にぜいたくではなく、ごく普通のこと。全家庭の半分は雇っていると思う。

──舞台設定は97~98年。物語はどう作りましたか。時代背景を含めて教えてください。

私は80年代に生まれ、90年代は子供だった。「あの時代を一番良く知っている」という自覚がある。今のシンガポールは大きく変わった。理解できないと思うほどだ。97、98年のことは忘れられない。アジア金融危機が起き、抑圧された、暗い時代だった。米国企業に勤めていた父も失業し、その後より良い仕事には就けなかった。私の人格形成に大きな衝撃を与えた時期だった。

──どこが最も大きく変わりましたか。

(高級ホテル・レジャー施設の)マリーナベイサンズが街の中心に完成した。人気のスポットで、日本人はみな泊まりたがるでしょう?(笑)。なぜ街の真ん中にカジノを作るのか、私にはまったく理解できない。シンガポールの役人は分かっているだろうか。普通カジノは郊外に作るものだ。あれにより街の外観、人々の価値観も変わった。資本主義的傾向が強まり、昔よりずっと金満体質になっている。

──映画の道に入ろうと思ったきっかけは?

理由は分からない。15歳の時、すでに「映画監督になりたい」と思っていた。子供のころはジャッキー・チェン(成龍)のアクション、香港コメディー、警察もの、ヤクザ映画、ホラーなどを見ていた。ただ、私は中でも週末の午後、テレビで放映される映画を見るのが好きだった。それは田舎が舞台の中国映画で、いつも同じ女優が出ていた。後に女優はコン・リー(鞏俐)で、初期のチャン・イーモウ(張芸謀)監督の作品と知った。

──成長するにつれ、どんな作品が好きになって影響を受けましたか?

15歳ごろからイタリア、フランス、日本、台湾映画などを見るようになった。映画に対する固定観念を変えてくれた。自己形成にも大きく影響したと思う。

15歳の時、今思えば世間知らずなことをした。インターネットでUSC(南カリフォルニア大学)、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、NYU(ニューヨーク大学)など、世界の有名な映画学校に手紙を書き、どうすれば入学できるか調べた。ところが学費が20万ドル(約2000万円)もかかる。法学や医学を勉強するより高い。シンガポールの中流家庭にとっては大金だった。そこで17歳の時、シンガポールで唯一映画を教える学校、義安理工学院の映画コースに入学した。

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

[続き]映画を作り続けることは、痛みを好きになること
1

人気キーワードHOT

特集SPECIAL

ランキング RANKING

Instagram