2017/5/18

映画「夜明け告げるルーのうた」/少年と人魚の出会いを繊細に描く

(C)2017ルー製作委員会

さびれた港町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年カイ(声:下田翔大)は、父と祖母の3人暮らし。両親の離婚で東京から引っ越してきた。親への複雑な思いを抱え、学校生活にも後ろ向きのカイ。ある日、同級生に「バンドに入らないか」と誘われ、練習場所の島へ行くと、人魚の少女ルー(谷花音)が現れた──。

先月公開されたアニメーション映画「夜は短し歩けよ乙女」(17)を監督した湯浅政明が、初めて取り組んだ完全オリジナルの劇場用長編アニメだ。「マインド・ゲーム」(04)、「四畳半神話大系」(10)、「ピンポン THE ANIMATION」(14)など個性的な作風の湯浅。今回は人間の少年と人魚の少女の出会いを繊細に描く。

随所にジブリ作品の影響を感じさせる

海に面した町を舞台に、少年が人魚に出会い、町の人々を巻き込む騒動を起こしながら、成長していく。甘酸っぱいジュブナイル(少年少女)作品だ。未知なる生物と少年の邂逅といえばスティーブン・スピルバーグ監督「E.T.」(82)を思い出す。が、今回の"生物"はかわいい人魚。片言だが話すこともでき、音楽を聴くと尾びれが二本足に。よちよち歩く子どものようだ。物語の主眼はカイの心の解放に置かれている。

(C)2017ルー製作委員会

"ボーイ・ミーツ・ガール"の王道に、湯浅監督得意の疾走する躍動感が合わさっている。宮崎駿監督率いる「スタジオジブリ」作品に対抗できるクオリティーだ。キャラクターの随所にジブリ作品の影響を感じさせる部分があり興味深い。

親の離婚で心を閉ざした少年が、天真爛漫な人魚に寄せる初恋にも似た感情。心の動きが丁寧に、繊細に描かれる一方、"湯浅節"と呼ばれる躍動感が心地よく響く。細部まで精密に描き込まれた背景と相反するように、キャラクターは極端にデフォルメされ、ユニークだ。ジブリ作品と一線を画して見事。独創的な水の表現、レトロなダンスシーン。監督の魅力とアイデアが凝縮し、大人から子どもまで楽しめる作品に仕上がった。

(C)2017ルー製作委員会

「夜明け告げるルーのうた」(2017年、日本)
監督:湯浅政明
出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤壮馬
2017年5月19日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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