映画を作り続けることは、痛みを好きになること
──監督の作品は人物、状況描写がとても細かいですよね。どんな子供だったのでしょう。
いたずら好きではなく、どちらかといえばいじめられっ子。観察力はあったかもしれない。物分かりが早い子だった。今もそうだが、細かいことに目が行く。部屋に入ると、どう人が動き、どういう身振りで、どう関係しあっているか、一瞬で把握しようとするくせがある。
細部に注目するのは、私の映画作りの特徴かもしれない。戦争、殺人、暴行など大きな事件を扱う監督もいる。しかし私は、小さなことにこそ人間性が宿り、人に語りかけるものがあると思う。
──次回作の構想は。
まだ決まっていない。こちらが教えてほしいぐらい(笑)。唯一分かっているのは、社会の人間模様、人々の生きざまをテーマにすること。それ以外どうなるか分からない。空から脚本が降ってきて、それを撮るだけなら楽だろうが、人生そうはいかない。
楽をして作る映画にいいものはない。いいものにするため、戦い続け、痛みに耐えなければならない。苦しむことを覚悟している。映画を作り続けることは、痛みを好きになることではないか(笑)。
──シンガポールを今後も拠点に活動するのでしょうか。
私は今シンガポールとの間を行き来しつつ、妻とロンドンで暮らしている。シンガポールにとどまることだけはしたくない。人口500万人のとても小さな場所にいると、自分が成長しない気がする。
ロンドンにはあらゆる才能があふれている。演劇、ダンス、オペラ、絵画。さまざまな分野の才能がある人が活躍している。自分がとてもちっぽけで「他の人にはかなわない」という気持ちにさせてくれる。それは自分にとってとても良いことなんだ。謙虚になることが自分を成長させ、世界で戦い続ける動機になる。シンガポールではほめられすぎる。私は逆に今、常に挑戦状を突きつけられたいんだ。
「イロイロ ぬくもりの記憶」(2013年、シンガポール)
監督:アンソニー・チェン
出演:コー・ジャールー、アンジェリ・バヤニ、ヤオ・ヤンヤン、チェン・ティエンウェン
2014年12月13日(土)、K'Cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。