「推す」という言葉が生まれるよりもずっと前から、アイドルを推し続けてきた人がいる。アイドル評論家で、「おたく」の名づけ親としても知られる中森明夫さんだ。
2023年11月17日に発売された最新著書『推す力 人生をかけたアイドル論』(集英社)では、50年以上にわたってアイドルを追ってきた中で、心に刻まれた「推し」たちの魅力を語っている。
さまざまな人の「好き」の思いを深掘りする連載「好きってなんなん?」第2回では、「好き」のプロである中森さんに、ファンにとってのアイドルや「推す」とはどういうものなのかをうかがった。
※この記事は、2023年12月8日に「BOOKウォッチ」に掲載されたものです。人生の「推し」3人は?
これまで出会ってきたアイドルの中で、特別な推しを3人だけ選ぶとしたら。中森さんが挙げたのは、11歳で初めて好きになったアイドル・南沙織さん、ライターとして活躍し始めた頃に交流が多かった小泉今日子さん、そして俳優ののんさんだ。3人の共通点は、「かわいらしいだけではなく、強い人」。
「南さんがデビューした1971年は、沖縄がまだ返還されていない時代です。たぶんパスポートを使って東京に来ていたと思いますよ。しかも、当時16歳。とても大変だっただろうし、そこには強い意志があったんじゃないでしょうか」
小泉さんも、アイドル時代は自らショートヘアにするなど果敢に自己表現し、最近では政治的発言にも積極的だ。のんさんは本名を芸名として使えなくなり、仕事も制限されてしまう中で、負けずに独立して新境地を開拓している。そんな、意志を持って戦う姿に惹かれるのだという。
「デビューする時はまだ何も知らないから大人に言われるままにやるしかないんだけど、しばらくしたらどんどん自分の意見が出てくる。そこからだと思うんですよね、アイドルは。『変わる瞬間』に、僕はグッとくるんですよ」
アイドルは「変わる」存在。その思いのルーツは、南さんデビューと同じ1971年に始まったオーディション番組「スター誕生!」だ。70年代には森昌子さん、桜田淳子さん、山口百恵さんの"花の中三トリオ"やピンク・レディー、80年代には小泉さんや中森明菜さんなど、名だたるアイドルを輩出した。
「"中三トリオ"は僕より少し年上で、ほぼ同級生みたいな感じでした。クラスにいるような普通の女の子たちがテレビに出て、スターになっていったんですね。その変化をずっと見ていて、11歳の僕は『これがアイドルなんだ』と思ったんです。最初から完成されているのではなく、ファンの応援と一緒に変わっていく存在なのだと」
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。