究極のグルメ、土料理で心身デトックス【辛酸なめ子の東京アラカルト#13】
究極の食材は土かもしれません。
7年ほど前、食べられる土にハマっていたことがありました。モンモリロナイトという産地はカリフォルニア(というとおしゃれな印象ですが)の細かい土。老廃物や有害物質をデトックスする土らしいと聞いて、たまに水に溶かして飲んだり(見た目は泥水)、きな粉っぽく食べ物にふりかけて食べていました。なんとなく体内から浄化される感じがしました。でも、その食用土を取り扱っていた輸入元が、もうこの土を販売しなくなって、土が切れてしまっていたのです。
そんな折、都内に土を食べさせてくれるレストランがあると聞いて行ってまいりました。フレンチの有名店「ヌキテパ」です。土を希望と予約時に伝えると一万円のコースに組み込んでくれます。
もとはドイツ大使邸宅だったという一軒家のレストラン。高級住宅街の中で土を食べるなんてなかなかスノッブです。内装はアースカラーで土を感じます。大きな窓からは庭が臨めて、リアル土が目に入ります。都内のお店ではなかなかない贅沢な環境。そしてこちらは土だけでなくスイカ推しみたいで、スイカの絵画が展示されているのも気になりました。
最初の料理は、切り株のお皿に乗って出てきた、へしこイワシのそば粉揚げ。ウッディで自然が感じら、土への布石のようです。続いてはタイとボタンエビのカルパッチョ。魚介で有名なお店なので、鮮度も味もすばらしいです。
近くのテーブルでは意識高そうな男女がピースボートの話などしていました。やはり地球の大地を感じられる店には意識の高い人が集まるようです。
洗練されたフレンチの土料理。漫画の名場面もフラッシュバック
そしてついに中盤で出てきた土料理!

メイン料理にさり気なく土ソースが。濃厚で複雑な味わいに土の歴史を感じます。
メインのヒラメにゴボウとキャベツ、しいたけに土のソースがかかっています。ゴボウがそもそも土っぽい味なので、違和感なく土を取り入れられる土入門料理。ゴボウがよりワイルドになって、滋養あふれるテイストに。キャベツの甘みも土で引き立ちます。魚の酸味と土の渋みのハーモニーも洗練されていました。やっぱり土はいいです。お店の方に伺ったら、栃木県鹿沼市の土だとか。海外の土よりも、国内の土の方が日本人の体質に合っている気がします。そして土がかなり細くて、なめらかです。裏ごししている感じで手が込んでいます。
デザートの前に出てきた、口直しの土アイスは、パッと見、泥団子でテンション上がりました。

口直しの土アイス。砂糖と土も合います。チョコともあんことも違う独特なアーステイスト。
泥団子といえば、「ガラスの仮面」の北島マヤが舞台でまんじゅうから泥団子にすり替わっていたのを、役になりきって「おとううめぇよ......おらぁトキだ!」「ジャリジャリ」とむさぼり食べたあの泥団子。漫画のシーンがよぎり、なつかしさで感無量です。そして口に入れると、役になりきっているわけでもないのに、おいしさが広がります。演技なしで全然いけます。チョコでもないあんこでもない、濃厚な甘み。もう第二のチョコとして、土を売り出せそうです。土利権、今のうちから確保しておくと食糧危機に備えられるかもしれません。
デザートではもちろん土のブリュレをオーダー。グラタンのように温かい土に癒やされました。焼きたての土は包容力にあふれていました。デトックス効果があるギルティフリースイーツです。

あったかい土ソース入りのブリュレ。このコースを食べた次の日心なしか体が軽かったです。
体だけでなく精神的にも浄化。土料理で地球への感謝と一体感に浸りました。食物連鎖で最下位にある土を食べることで人格的にも謙虚になれそうです。
1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。