辛酸なめ子の東京アラカルト
漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが注目する東京のお出かけスポットやイベントを紹介。辛酸さんならではの視点、現地でのエピソードに思わずニヤッとしてしまいます。
2017/11/ 3

辛酸なめ子の東京アラカルト#7 アメ横が赤ちゃんパンダキャンペーン中

上野周辺は今パンダ特需で盛り上がっています。6月12日に生誕したメスの赤ちゃんパンダが無事生後100日を超え、名前もシャンシャン(香香)に決定しました。

前に生まれた赤ちゃんが1週間で天国に行ってしまい、パンダの子育ては難しいということで心配していたのですが良かったです。生まれて1週間後くらいに上野動物園に行き、覆われているパンダ舎の前で母パンダ、シンシンにテレパシーのコミュニケーションを試みました。母子の健康状態を尋ねると、「この子は強いから大丈夫」というメッセージを受信。妄想かもしれませんが......。でも今のところ元気に育っていてうれしいです。

パンダでアメ横が盛り上がっているというニュースを目にしました。ある休日、御徒町のアメ横を訪れました。さっそく目に飛び込んできたのは、真ん中がパンダの顔のハンドスピナー。その名もパンダスピナーです。「2900円が800円になってお買い得だよ。テレビでもやっててみんな知ってる」 妙な説得力で客を呼び込む店員のおじさん。マダム客が引き寄せられ購入してました。それにしても元値が高すぎです。

耳の部分が回転するパンダスピナー。ハンドスピナーのブームはまだ大丈夫なのでしょうか。

すぐ近くの店ではパンダをプリントしたゴルフボールが販売。コスメショップにはぬいぐるみが展示してあったり、パンダ誕生&命名に盛り上がっています。コーヒー豆のお店では「シャンシャンに決定しましたセール」として、通常400グラム1100円のプレミアムブレンドを500グラム1000円と微妙な値下げ。「すごいいい椎茸を使ってますから、大赤字ですよ」と女性店員がアピールしていたのは、パンダデザインの袋に入った出汁の店です(一瞬パンダの出汁かと思いました......)。他にも八百屋の店員さんがパンダのTシャツを着てたり、マツキヨの化粧品にパンダが乾燥肌でひび割れてるイラストが添えられてたり、ゲームセンターのUFOキャッチャーにパンダのマスコットが大量に入っていたり、随所でパンダを発見しました。

八百屋の店員さんがさりげなくパンダファッション。チベット産の松茸が2本で1000円と激安でした。

UFOキャッチャーに大量のパンダが。赤ちゃん命名記念のマスコットだそうです。仕事が早いです。

パンダブームに便乗するかしないか、お店が二分されている街

でもパンダなしでも盛り上がっていたのが食べ物の屋台。ケバブ屋の店員さんは結構グイグイきて、メモを取っていたら「何書いてるの。食べてみないとわからないよ」と話しかけてきました。中華料理屋も、パンダにちなんだ国なのに、とくにパンダを利用しないままで賑わっています。それも先見の明でしょうか......。パンダの赤ちゃんは所有権が中国にあって、2年をめどに返却することになるそうです。2年って、あっという間では......まだかわいい盛りなのに淋しいです。パンダに頼りすぎていたら2年後が心配です。この2年、客寄せパンダで稼ぎまくるか、あえてスルーするのか、お店のマーケティング能力が試されます。アメ横のタフな商売人は、さようなら香香キャンペーンとかまた仕掛けそうですが......。約2年で、ブームを盛り上げて嵐のように去って行く赤ちゃんパンダ。中国の爆買いならぬ爆売りのパワーにしばらく身を任せたいです。

辛酸なめ子

1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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