深刻な事故の記録として、後世まで語り継がれるような映画
撮影は綱渡りの連続。原発のある双葉郡の近辺は、立ち入り禁止で撮影ができない。"原子力 明るい未来のエネルギー"と書かれたアーチは、自前で何とかするしかなかった。
「道路にアーチを立てるとして、許可が下りるかどうか。結局CG合成で乗り切った。かなりリアルに仕上げてもらったので、下手に小道具で作るよりよかったと思います」
各シーンの演出にあたっては、脚本をいかに福島という風土になじませるかに意を注いだ。「撮影に入る前は、僕が最初に現場に行って、天気や海の様子をチェックした。撮影中に潮が満ちてくると予想したら、それに合うように芝居を組み立て直したりした。空想の世界である脚本と、福島の自然とがうまく融合した映像が生み出せるよう心がけました」
試写を見たある観客から「静かな怒りを感じた」という感想を聞いた時には、「我が意を得たり」と思った。
「福島県人は、声を荒げて訴えるということをしない。どちらかというと物静かな人が多い。だからといって、怒りを感じていないわけではない。表には出さないけれど、内には激しい憤りや抗議の気持ちを秘めている。僕も福島県人として、穏やかに怒りを表現したいと思ってこの映画を撮ったので、そういう感想をいただいたのはうれしかった」
菅乃監督がめざしたのは、反原発のメッセージをセンセーショナルに打ち出す映画ではない。この時代に起きた深刻な事故の記録として、後世まで語り継がれるような映画だ。
「放射能の被害は100年後、200年後も続く。あまり目先のことで騒ぐのではなく、長い人類史の中で、福島の原発事故はどう位置づけられるかを、よく考えてほしかった。一度見てすぐに忘れられてしまうような映画ではなく、いつまでも繰り返し上映され続ける映画になればいいと思っています」
(文・写真 沢宮亘理)
「あいときぼうのまち」(2013年、日本)
監督:菅乃廣
出演:夏樹陽子、勝野洋、千葉美紅、黒田耕平、大谷亮介、大池容子
2014年6月21日(土)、テアトル新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。