所属事務所が首を縦に振らない。キャスティングは難航
原発をめぐる物語ではあるが、前段階として戦時下のウラン採掘のエピソードを加えた。従来の原発映画にはない独創性を感じさせる。
「何年か前に新聞の記事で、ウラン採掘の事実を知った。衝撃だった。ウラン採掘は、陸軍が主導した。原発は、電力会社が国の後押しを得て推進した。両者に直接のつながりはないが、福島が国策に翻弄されたという点では共通していると思い、取り入れることにしました」
「3.11」から3年半。原発再稼働、原発輸出と、原発推進の動きは止まらない。「結局、国の構造は少しも変わっていない。"最大多数の最大幸福"という言葉があるが、多くの人の利益を優先する。それが国の政策だという考え方が、高度経済成長の時代にあった。今もその考え方が引き継がれている」
東京電力という固有名詞を出し、原発問題を真正面から取り上げた。クランクインにこぎつけるまでには、少なからぬ苦労があった。
「映画業界には、原発ネタを避けたいという空気があった。有志の力を結集してやるしかなかった。幸いに、自分と思いを同じくする人たちが懸命に動いてくれて、何とか企画を実現することができました」
キャスティングが難航するであろうことは想定していた。俳優が出たいと言っても、所属事務所が首を縦にふらない。その中で、すんなりオファーに応じてくれたのが、愛子役を演じた夏樹陽子だった。
「夏樹さんには、被災者の役に立ちたいという思いがあった。その思いと僕の作品の意図が一致し、出演を快諾いただいた。(健次役の)勝野洋さんは、親しい夏樹さんが出るなら僕も、と言ってくださった」
夏樹陽子の愛子とともに、中心人物と言えるのが千葉美紅演じる怜である。オールヌードも辞さない体当たりの演技で、見る者に鮮烈な印象を残す。
「ある映画の打ち上げパーティで話す機会があり、典型的な現代っ子だと思った。いわゆるアイドルとは対照的な、どこにでもいるような普通の女の子。怜のイメージにぴったりだと思い、オファーしました。彼女は自分の出番がない時も、常に現場でスタッフとともに過ごし、自分なりに被災地を訪ねたりもしていた。そこで感じた気持ちをベースに、怜というキャラクターを演じてくれました」
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。