辛酸なめ子の東京アラカルト#6 「ひだまりの泉 萩の湯」の超絶コスパ感

鶯谷の「萩の湯」という銭湯がすごい! と最近ツイッターなどで盛り上がっていて、気になっていました。ただ、銭湯やスパは好きでよく行くのですが、460円で入れる銭湯に過度の期待はしてはいけないという思いがありました。◯クーアの高さに慣れてしまったのでしょうか。快適な空間はそれなりの対価を必要とするという固定観念があったのです。

上野から萩の湯に歩いて行く途中、お寺の脇の暗い道に路駐車が大量に停まっているところがありました。見ると中には壊れている車もあって、鬱蒼とした車の墓場みたいな空気で体が重くなりました。これが萩の湯で癒されるといいのですが......。

リニューアル計画は2013年に始まっていたそうです。満を持してオープンし、ツイッター民のおかげで情報が広まりました。

萩の湯に到着すると想像以上に立派なビルです。9階建てのビルの1~4階が萩の湯。もしかして上のフロアの家賃収入があるのかも、と勝手に想像。それなら安くても安心です。普通の銭湯では見かけない食事処があるのもポイント高いです。

高級なスパに匹敵する充実のお風呂。温泉はないけれど人情が......

460円で良いのかと思いながらチケットを買い、さっそく入浴。女湯はピンクの富士の絵が描かれていてかわいいです。中は結構な広さで何種類もお風呂が。露天もあります。温泉ではないものの「光マイクロバブル湯」「電気風呂」「炭酸泉」など匹敵する充実ぶり。

適度にぬるくて心地よい「光マイクロバブル湯」に入っていたら、おばさま同士の会話が聞こえてきました。

「私は来年60歳」
「私は70よ。シワは年輪だから......」

どうやらこのお湯で知り合った初対面同士のよう。さすが下町、人情がお湯にとけこんでいます。70歳のおばさんは「水風呂入ってからここに来たから天国のよう。今日パパと喧嘩してカッカしてたから水風呂に入ったんだけど、やっぱりムリだったわ」と60歳のおばさんに身の上話。それに対し「水風呂はバーッと一気に入ると良いのよ」とアドバイスする60歳のおばさん。

それから2人は、往診がある近所の医者の情報とか、血圧とか、歯医者についてなど健康トークに花を咲かせていました。「私の前歯は差し歯で4本で32万」と70歳のおばさんが言うと「私のインプラントは一本53万円もしたの」と、もしかしてマウンティング?発言の60歳のおばさん。気になって2人の会話をずっと聞いていたら湯当たりしそうです。ちなみに70歳のおばさんはそのあと別の人に「水風呂気持ちいいよ~」と話しかけていました。あれ、さっきは水風呂はキツいって言っていませんでしたっけ? 淋しがりやの人なのでしょうか。全ては人情という一言でノープロブレムです。

充実のお風呂ですっかり血行も高まって、リラックスして脱衣所へ。そこで着替えていたら、ショックなできごとが。私は下の段のロッカーを使っていたのですが、上の段のおばさんのロッカーから、下着(パンツ)と靴下が落ちてきて、私のバッグにin。しかも見たところ使用済みの汚れた洗濯物です。「あっ......」と思わず声を上げると「ごめんね~」とおばさん。全ては人情です......。油断しすぎは禁物の下町の銭湯。ハプニングもある意味楽しめます。ちなみに女風呂の入口には「1時になると男性清掃員が入ります。裸でも清掃します」と注意書きがあり、ドキドキしました。

うどんは530円でした。皮から手作りの餃子は400円。イエローカレーは700円。こもれびラーメンは700円などコスパ高いです。

動揺した心も、「食事処 こもれび」の手作り感漂ううどんやギョウザが癒してくれました。お客が多すぎるからか出てくるのが遅めでしたが、厨房がすごい大変そうなのが見えたので、応援の念を送りました。安すぎてサービスも素晴らしくてもはや慈善事業の域です。補足ですが、ドライヤーも20円入れる式ではなく、無料で使えて最高でした。もう萩の湯に足を向けて寝られません。

辛酸なめ子

1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。

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