2014/5/10

映画「百瀬、こっちを向いて。」/あの"映画泥棒"の監督が放つ、甘酸っぱい青春の恋愛映画

中田永一の同名小説を映画化した「百瀬、こっちを向いて。」。映画館で盗撮防止を呼びかけるCM「NO MORE 映画泥棒」などを手がけた耶雲哉治の初長編監督作だ。

疑似恋愛ゲームはそれぞれの心を傷つけていく

相原ノボル(向井理)は30歳。文学賞を受賞して母校の高校から講演依頼を受け、卒業以来久しぶりに帰郷する。昔と変わらぬ街に戻ったノボルに、幼い女の子を連れた女性が声をかける。先輩の彼女・徹子(中村優子)だった。喫茶店で話しながら、ノボルは高校時代のある「うそ」を思い出す。

15年前。高校に入ったノボル(竹内太郎)は他人とうまくつきあえず、クラスでも目立たない。女子との交際も絶望状態だ。ある日、幼なじみの先輩・宮崎瞬(工藤阿須加)に呼び出され、ショートカットで野良猫のような目つきの少女を紹介される。隣のクラスの百瀬陽(早見あかり)だった。

瞬はバスケ部のキャプテンで女子の憧れの的。本命の彼女・神林徹子(石橋杏奈)がいた。しかし校内に「瞬が百瀬と付き合っている」とうわさが広がる。疑惑を打ち消すため、瞬はノボルと百瀬を偽装カップルに仕立てた。ノボルは戸惑うが、うそとはいえ、初めて女子との"交際"に浮かれていた──。

3年前に「ももいろクローバー」を脱退した早見あかりの初主演作。早見は長い髪をばっさり切って役に挑んだ。恋に一途な百瀬は、複雑な少女だ。好きな先輩のため、好きでもない男と付き合う。校内ではノボルとアツアツの"偽装恋愛"を演じるが、校門を出ると一転邪険に扱う。

そんな百瀬に密かな恋心を抱くノボル。徹子の誘いでノボルと百瀬はダブルデートに出かけるが、うそをつき続ける二人のいらいらは沸点に達してしまう。瞬の保身から始まった疑似恋愛ゲームは、順調に見えてそれぞれの心を傷つけていた。

森鴎外の小説「舞姫」の主人公、ダブルデートで見に行くハリウッド映画「刑事ジョン・ブック 目撃者」(85)、花言葉などを引用し、百瀬と徹子の心情を代弁させる。心憎い演出だ。昔のうそが時を超え、現在につながるエピソードがほろ苦い。過去の真相を知りたいノボルと、話をはぐらかす徹子。二人の様子がすべてを物語る。甘酸っぱい青春の一ページを、鮮烈に描いた恋愛映画の佳作である。


「百瀬、こっちを向いて。」(2014年、日本)

監督:耶雲哉治
出演:早見あかり、竹内太郎、石橋杏奈、工藤阿須加、ひろみ
2014年5月10日(土)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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