2016/7/ 5

映画「ブルックリン」/地味で野暮ったかった少女が都会の女性になっていく

1950年代、アイルランドの田舎町に暮らす少女、エイリシュ。勤務先の食料品店では、性悪な女主人にこき使われ、ほとほと嫌気がさしている。このまま働き続けても、明るい未来は開けない。エイリシュは会計士をしている姉のサポートを受け、米国で活路を開くことを決意する。

渡航先はニューヨーク。故郷とは大違いの大都会だ。だが百貨店に職を得たものの、内気な性格が災いし、なかなか職場に適応できない。そんなエイリシュを見かねた同郷の神父から「夜学で簿記を学んではどうか」と勧められる。

会計のプロになるという目標ができたエイリシュ。表情が明るくなっていく。アイルランド移民が集まるパーティーでは、イタリア系の移民である好青年のトニーと出会い、やがて恋仲に。

当時の移民社会の現実がユーモラスに描かれる

地味で野暮ったかった服装や髪型が洗練され、化粧も上達していく。いかにも移民然としていたのが、見る見るあか抜けて都会の女性らしくなっていく。シアーシャ・ローナンが、エイリシュの変化のプロセスを、セリフ、表情、メイクを駆使して、過不足なく表現。絶妙な演技によって、「つぐない」(07)以来2度目のオスカー候補となっている。

やがて、エイリシュは会計の資格を取得。トニーと手を携え、輝かしい未来へと踏み出すであろうと思われたその時、故郷から悲報が届く。急きょ帰郷することになる。帰郷後の行動は見る者を驚かせ、いらいらさせるに違いない。すでにニューヨークで人生を見出し、トニーという伴侶も見つけた。そこに何の不満があるのか。不安なのか、迷いなのか。だとすれば、何がエイリシュを迷わせているのか。

二つの国、二つの愛との間で揺れる女心。ラストの決断。見る者の期待を裏切るのか、それとも――。

2月に公開された「キャロル」(15)同様、1950年代のニューヨークが忠実に再現されている。ただし今回は移民が住み集うブルックリンが舞台。下町の庶民の質素な生活ぶりに焦点があてられている。エイリシュがトニーの家に招かれ、慌ててスパゲティーの食べ方を特訓するシーン、文章の苦手なトニーが小学生の弟に手紙を代筆してもらうシーンなど、当時の移民社会の現実がユーモラスに活写されていて興味深い。


「ブルックリン」(2015年、アイルランド・英国・カナダ)

監督:ジョン・クローリー
出演:シアーシャ・ローナン、ドーナル・グリーソン、エモリー・コーエン、ジム・ブロードベント、ジュリー・ウォルターズ
2016年7月1日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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