1970年代のハンガリー、ブタペスト。元日本大使未亡人宅に住み込みで働くリザ(モーニカ・バルシャイ)は、リザにしか見えない幽霊日本人歌手・トミー谷(デビッド・サクライ)の歌に日々元気付けられていた。恋愛小説のように甘い恋にあこがれたリザは、30歳の誕生日に許可を得て2時間だけ外出する。ところが、リザが出ている間に未亡人が殺されてしまう──。
音楽は日本で買い集めたCD
ハンガリー生まれのファンタジック・コメディー「リザとキツネと恋する死者たち」。へんてこ昭和歌謡と日本語が飛び交う、摩訶不思議な作品だ。日本びいきのウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督が旅先の那須で「九尾の狐」伝説を知り、触発されて書いたという。
トミー谷がグループサウンズ風昭和歌謡を日本語で歌い踊る。人が死ぬと画面にでかでかと出る「死者」の字は、深作欣二監督作品に影響されたという。日本に似た場所を探し出して那須に仕立てるなど、監督のこだわりが随所に表れる。
リザの恋をめぐって次々不審な死が起きる。描き方がハリウッド作品とはひと味もふた味も違い、非常に個性的だ。フランスのジャン=ピエール・ジュネ(「アメリ」)のように、観客の視覚に訴えていく。必要とあらば大胆な特殊効果でインパクトを与える。瞬間的に観客を引き付けるCM出身の監督らしい技だろう。
さらに面白いのが音楽だ。監督が日本で買い集めた昭和歌謡のCD、動画サイトで見つけた日本の曲に着想を得て考えられたという。フランスのダニエル・リカーリ風にスキャットが印象的な甘いバラード。60年代のボサノバ、マカロニ・ウエスタン風など、センスのいい懐メロ的楽曲は、バラエティーに富んでいて飽きない。
日本人にはやや苦笑してしまう箇所もあるが、日本好きなハンガリー人監督の和洋折衷世界は味わい深い。ブラックでシニカルな表現もあり、心を妙にくすぐる愛すべき作品だ。
「リザとキツネと恋する死者たち」(2014年、ハンガリー)
監督:ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ
出演:モーニカ・バルシャイ、デビッド・サクライ、サボルチ・ベデ・ファゼカシュゾルタン、ガーボル・レビツキ、ピロシュカ・モルナール
2015年12月19日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
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