あかり、桜子、芙美、純。女性4人が休日にピクニックを過ごすシーンから、映画は始まる。持ち寄ったランチを食べながら、近況を報告し合い「今度は泊まりがけで有馬温泉へ行こう」と盛り上がる。
4人とも30代半ばぐらいか。看護師のあかりはバツイチで今は独身、ほかの3人は既婚者だ。職場や家族から解放される4人きりのひとときが、彼女たちにとってかけがえのない時間なのだろう。屈託なさげに談笑する4人。しかし、実はそれぞれ問題を抱えている。映画の進行につれて、それが何なのかが明らかになっていく。
いかにも平凡な4人の女性たち
4人が心の内に隠し持った小さな爆弾、大きな爆弾。どんな拍子に爆発するのか、しないのか。起爆スイッチとなるのは誰なのか。4人の人間関係に、さまざまな他人が介入し、接触することで、いよいよ彼女たちの心はざわつき、乱れ、爆発の危険にさらされていく。
いかにも平凡な4人の女性たち。街ですれ違っても、目を奪われることはないだろう。それがストーリーの進展とともに、目の離せない特別な存在へと変貌していく。気がつくと、彼女たちの一挙一動に目が釘付けとなっている。
独特のスタイルを持った作品である。5時間を超える長尺だが、全体を構成するシーンの数は決して多くない。一つひとつのシーンが長いのだ。
たとえば芙美が企画に関わるワークショップに4人が参加するシーン。講師の鵜飼の指導を受けて、一連のエクササイズを行うのだが、普通なら中略に中略を重ねて簡潔に編集するところを、カットなしに丸ごと見せている。同様に芙美が企画する朗読会のシーンでも、女性作家が自作を1篇読み上げるのを、最初から最後まで分断せずに収めている。
にもかかわらず、冗長になるどころか、見る者をぐいぐい引き込んでいく。まるでその場に立ち会って、ワークショップや朗読会を、彼女たちとともに経験しているような気分にさせられる。5時間超の長さが少しも退屈に感じられないのだ。
4人の女優は全員が素人で、濱口竜介監督が主宰した"即興演技ワークショップ"の参加者だという。プロの役者の演技とは次元の異なる、いかにも生々しい演技に圧倒される。第68回ロカルノ国際映画祭では、4人全員が最優秀女優賞に輝いた。
「ハッピーアワー」(2015年、日本)
監督:濱口竜介
出演:田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら
2015年12月12日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。