映画「百日草」トム・リン監督、主演のストーンに聞く 妻を亡くした経験を映画に「自分が立ち直るための儀式だった」
愛する者を失った時、人はどう痛みを乗り越えるか。台湾のトム・リン(林書宇)監督の新作「百日草(原題)」は、妻を亡くした監督自身の体験を元にした人間ドラマだ。「(映画の主人公と同じように)出口を求めてもがいていた」と話す監督。「この映画を撮ることは、自分が立ち直るための儀式だった」と振り返った。
主人公は二人。同じ交通事故で妻を失ったユーウェイ(ストーン)と、婚約者を失ったミン(カリーナ・ラム=林嘉欣)。それぞれ心身ともに傷を負いながら、喪失感を埋めるため苦しみ、葛藤する過程が描かれる。
第28回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門での上映に合わせ、このほど来日したリン監督、ストーンに話を聞いた。ストーンは台湾の人気バンド・メイデイ(五月天)のギタリストとして活躍。俳優業にも進出し、活動の幅を広げている。香港映画界の実力派のラムは結婚、出産を経て5年ぶりの映画復帰作となった。
本当に妻を亡くしたような喪失感
──自身のつらい体験を脚本に書くことで、さらに痛みが増すことになりませんでしたか。
監督:妻が亡くなった悲しみから立ち上がるには、ある儀式が必要でした。(劇中で)ユーウェイは(ピアノ教師だった妻の生徒に)レッスン代を返しに行きました。ミンは(新婚旅行を予定していた)沖縄に一人で出かけました。僕にとってはこの映画を撮ることが儀式にあたり、自分にとって必要な行為でした。
──役作りをする上で、監督とはどんなやり取りをしましたか。
ストーン:クランクインの前にかなり時間をかけて監督と役について掘り下げ、脚本について討論しました。撮影に入る時点では、ユーウェイの性格、個性、関心、生活方式、亡くなった妻への気持ちを完全に理解していました。それをただ演技として表現するだけでした。
監督はわざわざ2、3日時間を作り、僕と妻役の女優との普段の生活のシーンを撮ってくれました。夫婦の甘い雰囲気を感じ合った後、彼女がいなくなり、本当に妻を亡くしたような喪失感がありました。演じる上でとても役に立ちました。
──これまで特に演技の勉強をした経験はないそうですが、現場に入る時にどんな工夫や準備をしていますか。
ストーン:役柄についてよく研究し、準備します。彼がどんなものが好きで、どんな背景で育ったか。人の個性は育った背景、環境、親などに大きく左右されると思うんです。それらをすべて考え、自分なりの方法で整理し、消化する。そういう手続きを必ずします。
今回は監督がある方法で、僕に想像する空間を与えてくれました。監督は「ユーウェイはサイだ」と言ったんです。動物のサイですよ。外見から内面まで「なぜサイなんだろう」と考えました。実は僕自身、自分はメイデイの中でキリンだと思っているんです。(笑いながら)すごく穏やかでおとなしい。キリンは背が高いから上から見下ろせて、動作もゆったりしている。そういう存在になりたいし、自分はそうだと思っています。
──劇中のエピソードは監督自身の体験や調査結果から作られたのですか。
監督:両方です。俳優が決まった段階で「彼らならどんなことが起こるだろう」と考え、出てきたエピソードもありました。一人になったミンは「果たして新婚旅行に行くだろうか」などと考えました。初七日に玄関先に塩をまいておくと、亡くなった人が戻ってきて足跡がつく。これは人から聞いた言い伝えです。
──カリーナ・ラムさんの魅力について教えて下さい。
ストーン:ずっと前から(女優としての)彼女を知っていたけれど、触れることもできない憧れの存在でした。今回初めてきちんと知り合い、とても親しみやすい人と分かりました。僕からみると「絹のような人」。こちらの反応を受け止める時に柔らかい。すーっと寄って来て、さあっと離れていくような感じです。彼女の反応は強烈ではなく、漂うように流れるように来る。でも彼女にそう言ったら「自分は活発だ」と反対すると思いますが。
監督:自分の考えをしっかり持つ、本当に素晴らしい女優。出演を依頼したのはタイミングが良くも悪くもある時でした。良かったのは彼女が演技から5年遠ざかり「そろそろ女優の仕事に戻ろうか」と考えていたところだったこと。悪かったのは出演を決めた1か月半後、実際に父上を亡くされたんです。彼女は「自分も死に向き合い、克服する過程が必要です」と言って出てくれました。
監督:トム・リン(林書宇)
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、ストーン(シー・チンハン=石錦航)、柯佳[女燕]、馬志翔、張書豪
第28回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門出品、第17回台北映画祭2015クロージング作品。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。