2015/6/ 5

映画「トイレのピエタ」/「パンツ見ていいよ」「勝手に死ぬなよ」 真衣の吐くセリフは愛にあふれている

画家になる夢をあきらめた宏は、窓ふきのアルバイトをしながら無気力な日々を過ごしていた。ある日、バイト先で突然倒れて病院に搬送され、末期の胃がんと診断される。放っておけば、余命は3か月。迫りくる死の影におびえながら、入院生活を送ることになるが――。

それまで漫然と生きてきた宏が、目の前に死を突きつけられて、初めて人生と真剣に向き合う。入退院を繰り返す同室の中年男性。小児病棟の少年と母。自分と同じく病魔にとりつかれた人々。しかし彼らは決して投げやりになることなく、人生を精一杯楽しもうとしていた。宏は彼らと交流する中で、自分がやり残した仕事について考えるようになる。

黒澤明の「生きる」を彷彿させるストーリー

ただし、宏に決定的な影響を与えるのは彼らではない。病院で偶然知り合った女子高生の真衣だ。医師から検査結果を告げられる時、付き添ってくれたのだ。余命宣告に打ちのめされ肩を落とす宏に、真衣はいきなり「一緒に死んじゃおうか」と持ちかける。冗談とも本気ともつかぬ真衣の言葉に、宏は当惑するばかりだった。

2人の縁はいったんそこで切れるが、しばらくして病院で再会。真衣は宏をひんぱんに訪ねるようになる。10歳以上も年が離れ、性格もまったく違う二人は始終ぶつかり合う。まもなく死ぬことが分かっている宏に対し、真衣は手加減しない。口論になり「死ね」と叫ぶ真衣。宏に最も言ってはならない言葉。だが真衣の「死ね」は、「愛してる」と同じ意味なのだ。

「背の低い子とキスするときはどうするの?」、「パンツ見ていいよ」、「勝手に死ぬなよ」。真衣の吐くセリフは愛にあふれている。純粋で駆け引きというものを知らないため無防備なまでのストレートさで、宏に愛をぶつけていく。そんな真衣の愛は、宏の最後の命の炎を燃え上がらせる。

惰性で生きてきた主人公が、末期がんを宣告され、若い女性と出会い、最後の力を振り絞って"ライフワーク"に挑む――。黒澤明の「生きる」(52)を彷彿(ほうふつ)させるストーリー。ドキュメンタリー映画を撮り続けてきた松永大司監督が、手塚治虫の病床日記に触発されて脚本・演出を手がけた長編劇映画第1作。宏にはミュージシャンで映画初出演の野田洋次郎。真衣には「イン・ザ・ヒーロー」(14)、「縫い裁つ人」(15)の杉咲花。オーディションで役を射止めた熱演が光る。


「トイレのピエタ」(2015年、日本)

監督:松永大司
出演:野田洋次郎、杉咲花、リリー・フランキー、市川紗椰、古舘寛治、MEGUMI、岩松了、大竹しのぶ、宮沢りえ
2015年6月6日(土)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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