2015/4/24

映画「Mommy マミー」/天才ドランのさらなる進化と成熟を感じさせる傑作

「マイ・マザー」(2009)で鮮烈にデビュー後、秀作を連発して時代の寵児(ちょうじ)となったカナダの俊英グザヴィエ・ドラン監督。5作目の新作「Mommy マミー」は、原点とも言える"母と息子"をテーマにした作品だ。

ADHDの息子の前に現れたのは...

掃除婦のダイアンは、ADHD(注意欠如・多動性障害)の息子スティーブと暮らすシングルマザー。愛する息子との暮らしは楽しい反面、気苦労も絶えない。情緒不安定なスティーブは、いったん攻撃的なモードに入ると、手に負えないからだ。ダイアンはスティーブが起こすトラブルの収拾に追われ、身も心も消耗しきっている。

そんなダイアンの前に、救世主が現れる。向かいの家に越してきた主婦のカイラだ。学校教師のカイラは、神経を病んで休職中だが、ダイアンと気が合い、スティーブも彼女になつき始める。スティーブの家庭教師をかって出るカイラ。ほっと胸をなでおろすダイアン。

ところが、カイラと二人きりになるや、スティーブはたちまちADHDを発症し、カイラをイラつかせる。胸のペンダントを引きちぎられ、激昂したカイラは反撃し、スティーブを組み伏せる。スティーブだけではなく、カイラもまた精神を病んでいたのだった。

しかし、雨降って地固まる。修羅場を経てスティーブとカイラは心の距離を縮める。ダイアンとスティーブの母子にカイラを交えた、3人の幸福な日々が始まるが――。

縦横比1:1という変則的な画面が新鮮。真四角な枠の中に3人の登場人物の感情がリアルに生々しく描写されており、興奮させられる。一見すると窮屈な画面だが、それで表現が狭まるのではなく、濃密になるところが、ドランの才能だろう。終盤、ダイアンが夢想にふけるシーンがあり、そのとき真四角な画面が横にスーっと伸び、はっと我に返ったときに、再び真四角に戻る。こういう演出も気が利いている。

同性愛や性同一性障害を扱ったこれまでの作品と比べ、共感しやすい内容であり、表現も明快さを増している。天才ドランのさらなる進化と成熟を感じさせる傑作だ。2014年のカンヌ国際映画祭で、ジャン=リュック・ゴダールとともに審査員特別賞を受賞した。


「Mommy マミー」(2014年、カナダ)

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル スザンヌ・クレマン アントワン=オリヴィエ・ピロン
2015年4月25日(土)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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