2014/8/14

映画「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」/リーマン・ショックで財産はパー 天国から地獄へ落ちた夫婦のドキュメンタリー

不動産ビジネスで成功した富豪カップル、デヴィッド&ジャッキー・シーゲル。自家用ジェット機にリムジン、そして豪華絢爛なアンティーク家具。贅沢の限りを尽くしていた二人だが、リーマン・ショックで財産はパー。一気にどん底へと突き落とされる――。

当初は米フロリダ州に"ベルサイユ宮殿"を建てるという、夫妻の壮大な夢を追うドキュメンタリーが撮られる予定だった。ところが、工事半ばの2008年9月、リーマン・ショックが発生。サブプライム・ローンありきで急成長したビジネスは、ひとたまりもなく弾け飛んだ。宮殿の夢ははかなくも砕け散り、撮影テーマも変更を余儀なくされる。結果的に、映画は夫妻の夢だけでなく、挫折も描くことになった。

「ベルサイユ宮殿のような家に住みたいと思ったの」

前半は、金ピカの装飾品に囲まれ、わが世の春を謳歌する夫婦のお気楽な日々が紹介される。同時に二人の貧しい出自が本人たち自身によって明かされる。金持ちになりたい。何不自由ない暮らしをしたい。そんな素朴な願望を、夫のデヴィッドはビジネスで達成し、妻のジャッキーは結婚によってかなえたのだ。

仕事で頑張って頂点を極めたデヴィッド。美貌を武器に玉の輿に乗ったジャッキー。まさにアメリカン・ドリームの体現者と言えるだろう。だが、"成り上がり"の常として、金の使い方を知らない。特にジャッキーの浪費癖がひどい。家中に無駄なものがあふれ返り、2500平方メートルの大邸宅が手狭になってしまった。そこで彼女が夢見たのは、ホワイトハウスの2倍、広さ8400平方メートルの大豪邸だった。「ベルサイユ宮殿のような家に住みたいと思ったの」

シーゲル家の財力からすれば不可能な夢ではない。デヴィッドも乗り気だった。観覧席のあるテニスコートとフルサイズの野球場。スケート場。子供たちの専用棟。夫婦の夢は際限なく広がった――。ここまでは予定調和の展開である。

映画が監督の想定を超えて面白くなるのは、後半からだ。風船のようにふくらんだ夫婦の夢はパチンと破裂する。リーマン・ショックとバブル崩壊。銀行は融資を凍結。資金繰りと借金返済に窮したデヴィッドは、数千人規模のリストラ、使用人の解雇、所有不動産の競売と、できる限りの手を打つが、難局の打開には至らない。

みるみる不機嫌になり、自分の殻に閉じこもっていくデヴィッドの姿は、成功者然とした前半の様子からは想像もできないくらい痛ましい。31歳年下で元ミセス・フロリダの愛妻ジャッキーからキスをせがまれても「ばあさんなんかとキスできるか」と憎まれ口を叩き、二言目には「電気を消せ」と説教。何とかビジネスを好転させたいという思いが高じてナーバスになっているだけなのだろうが、見ていてヒヤヒヤさせられる。

そんな夫に対し、激することなく、常に笑みを絶やさないジャッキーの優しさは、見る者の心をほっと和ませてくれる。借金まみれになってもなお浪費をやめない能天気さ、レンタカーを借りる際に「運転手は誰?」と尋ねるとんちんかんさも、邪気のない彼女の人柄を示しているようで、好感を抱かせる。

このように、前半からはうかがえなかったデヴィッドとジャッキーの人間性が浮かび上がったのは、リーマン・ショックのお蔭と言ってよい。突発的な出来事により、月並みなサクセスストーリーは、とびきりの人間ドラマへと転化したのである。

リーマン・ショックの前後で米国社会はどう変わったか。その現場報告としても貴重な映画だ。


「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」(2012年、米・オランダ・英・デンマーク)

監督:ローレン・グリーンフィールド
2014年8月16日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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