師走の活気あふれる大阪・ミナミ。香港から雑誌編集者のシェリーン(シェリーン・ウォン)が取材にやってくる。同行できなかったカメラマンの代わりに助っ人として駆り出されたのは、通訳を務めるナオミの弟で写真が趣味のタツヤ(小橋賢児)だった。最初はお粗末なショットしか撮れず、シェリーンの期待を裏切るが、すぐにコツをつかんで汚名返上。やがて2人の息は合い、いつしか男と女としてひかれ合う。ところが、ある出来事をきっかけに誤解が生じ――。
やきもきさせた末の、意表を突くエンディング
爽やかな恋がスタートした途端、思わぬ形で水を差すのが、客室乗務員のソルア(ペク・ソルア)。ソウルで副業のセレクトショップを経営するソルアは、仕入れのため足繁く大阪を訪れては、在日韓国人で妻子持ちのシンスケ(竹財輝之助)と逢瀬を重ねている。泥沼の不倫愛に疲れ、夜のミナミをさまよっていると、不良グループにちょっかいを出されるが、通りかかったタツヤに救われ――。
爽やかな好青年だが、不器用なところのあるタツヤ。シェリーンとはカタコトの英語でしかコミュニケートできず、ぎこちなさが際立つ。しかし、そのぎこちない感じがまさにタツヤの魅力であり、シェリーンの恋心をくすぐっているように思える。そんなタツヤが、まさかの行動でシェリーンの信頼を裏切ってしまう。
2人は危機を乗り越え、ハッピーエンドを迎えることができるのか。問題はシェリーンの滞在時間が限られていること。大晦日には帰国してしまう。タツヤはバイトに時間を奪われ、なかなかシェリーンに会えない。やきもきさせた末の、意表を突くエンディングが鮮やかだ。
香港、韓国、日本と、国籍の違う俳優たちが共演し、異なる言語が飛び交う。にもかかわらず、不協和音は響かず、見事なアンサンブルを醸している。マレーシア出身、定住せずにさまざまな国で活動しているリム・カーワイ監督。ボーダレスな生き方が、作品に反映されているかのようだ。
「マジック&ロス」(10)の非凡な映像センスが再び光る。ライトアップされたミナミの街並みが、息をのむほど美しい。猥雑なイメージのある街だが、作品の中のミナミは、ロマンチックな恋の舞台として輝きに満ちている。大阪大学に学び、地元企業に勤めた経験も持つカーワイ監督。大阪への強い愛着を感じさせる。
「Fly Me To Minami 恋するミナミ」(2013年、日本・シンガポール)
監督:リム・カーワイ
出演:シェリーン・ウォン、小橋賢児、ペク・ソルア、竹財輝之助
2013年12月21日、オーディトリウム渋谷ほかで全国順次公開(12月14日より関西先行上映中)。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。