2013/6/27

映画「コンプライアンス 服従の心理」/下手なホラーより恐ろしい 負のカオスに満ちたスリラーの傑作

米国のとあるファストフード店。金曜日でにぎわう店に1本の電話が入る。警官を名乗る男は「レジの女性が客の財布から金を盗んだ」という。女性店長のサンドラ(アン・ダウド)は店員のベッキー(ドリーマ・ウォーカー)だと判断。オフィスに呼び出す。

警官は電話越しに捜査協力を求め、店長に選択肢を2つ与える。「ベッキーの身柄を警察に引き渡す」か「身体検査して証拠を見つける」だった。店長は身体検査を選択。電話越しの指示に従い、「金は盗んでいない」と主張するベッキーの服を脱がせて調べ始める。

他人に羞恥心を与え、悦に入る姿は、現代社会が生み出したモンスター

2004年、米ケンタッキー州で起きた事件に着想を得た「コンプライアンス 服従の心理」。舞台は大きく分けて2つ。店のオフィスと犯人の自宅だ。にぎわうファストフード店。客たちはオフィスが恐怖の現場になっているとは気付かない。ごった返す店内と、緊迫するオフィスを対比させたカメラがうまい。

男の犯罪は人間の思い込みを利用しており、オレオレ詐欺に通じるものがある。権威の象徴である"警官"の指示を疑わない店長、同調する副店長。犯人は「ベッキーを常に監視せよ」と命令。要求は次第にエスカレートし、ついに"異常な指示"が出されることに──。

「コンプライアンス」は「法令遵守」。世界規模のファストフード・チェーンが現場であることがポイントだ。従業員は社のマニュアルを遵守して働く。店長は犯人の言葉をうのみにして犯罪に加担してしまう。犯人は人心操作に長けている。服従する相手はほめ、疑う相手は高圧的に威嚇する。冷静に考えればおかしなことだらけだが、従業員は集団催眠にかかったように指示に従ってしまうのだ。

ほぼ密室を舞台にした会話劇。得体の知れぬ不気味な恐怖は、下手なホラー映画より恐ろしい。平凡な男が電話1本で人々を操り、犯罪者に仕立て上げる。淡々とした態度で他人に羞恥心を与え、悦に入る姿は、現代社会が生み出したモンスターにみえる。

実際の事件では被害女性が高額の賠償金を受け取り、店長は解雇され、容疑者は証拠不十分で無罪になったという。権威に服従する人間の心理、身近に起こりうる犯罪の恐怖をリアルに描いた。人の神経を逆なでし、負のカオスに満ちたスリラーの佳作だ。


「コンプライアンス 服従の心理」(2012年、米国)
監督:クレイグ・ゾベル
出演:アン・ダウド、ドリーマ・ウォーカー、パット・ヒーリー、ビル・キャンプ
2013年6月29日、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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