辛酸なめ子の東京アラカルト#8 加齢を超越した華麗なアパ社長カレー
アパ社長カレー。食欲的に微妙な名称です。レトルトが売れているという話は知っていましたが、ついに首都圏に実店舗をオープン。初日は無料で50食が振る舞われ、元谷芙美子社長の握手会と撮影会というアイドル的なイベントまで開催。ツイッター上で話題になっていました。
以前、アパ社長の写真がプリントされたうまい棒を入手しに幕張のアパホテルまで行った身としては、ぜひこのカレーも食べなければ、と飯田橋へ。飯田橋に降りて、飯田橋にはアパホテルが2軒もあることが判明。アパの勢いに驚きつつ、飯田橋駅南店へ。夕食時、オープンした数日後ですがすぐに入れました。コック帽姿のスタッフが数人。600円前後のカレーを作るのにコック帽が必要なのかという疑念がよぎりますが、ホテルのブランディングでしょうか。
まず券売機でチケットを購入。「アパ社長カレー」普通サイズは680円で、「アパ社長レディースカレー」という少なめサイズは580円。ロースカツやエビフライ、ラタトゥイユなどのトッピングは150円ですが、年末までオープン記念特典で、チラシ(店頭配布)持参でトッピング無料です。エビフライが無料になったことで好感度が上昇。
やはりあの強烈な女社長の店に引き寄せられる人は独特の雰囲気があり、個性的なマダムの客が目を引きました。券売機のところで「ライスはいらないからルーだけ食べたいんです!」とリクエストしていました。ごはんをかなり少なめにするということで落ち着いていました。
彼女はアパフリークらしく頻繁にアパホテルに宿泊していて、アパに対して愛憎渦巻く複雑な思いを抱いているようでした。「赤坂のアパに泊まった時、ポイントカードを忘れて6万円も払ったのにポイント付けられなかったのよ」「それはもったいないことしましたね」と、店員男性がフォロー。「この前名古屋に泊まったら、ベッドが硬くて眠れなかったわ」「それはご迷惑おかけしました。最近はベッドを改良しております」など、クレーム混じりの意見を伝えていました。謝りながらも、アパの良さをアピールする店員さんに愛社精神を感じます。
濃厚すぎるカレーにビジネスへのたぎる野心を感じます
ちなみにカレーは、アパホテル発祥の地である石川県の金沢カレーをベースにした、濃厚でドロっとしたルーが特徴。具はビーフで、その上にトッピングがON。かなり粘着力が高いルーで、口に入れた瞬間は酸味やほのかな甘みを感じますが、喉に張り付きながらスパイシーさを放っていました。まさにアパ社長のような一筋縄ではいかない味。すごい勢いで急成長するアパホテルの、目標を定めたらなんとしても達成しようとするしぶとさ、執念すら感じられる粘度でした。量少なめにしましたがおなかいっぱいです。アパではビジネス関係の人を招いてカレーを振る舞う会を催していて、カレーを食べたら取引を結ぶまで帰れない、というまことしやかな噂を聞いたことがあります。ちなみに知人の外資系PRのおしゃれな美女が「一番おいしいのはアパカレー」と絶賛してましたが、正直そこまでは......。ふつうにおいしかったですが。
先割れスプーンで食べるのも金沢カレーの特徴らしいです。添えられたキャベツが食べやすいです。
ふと壁を見ると、「私が社長です。皆様カレーを召し上がり華麗な人生を」と書かれた色紙が。だじゃれをスルーしつつ壁の上に目をやると、ケースの中に帽子が展示されています。アパ社長といえば帽子。かなり昔に社長を取材させていただいた時、帽子をかぶる前はおとなしい雰囲気だったのがかぶったとたんスイッチが入ってエネルギッシュになっていたのが記憶に残っています。そんな重要なアイテムである帽子がお店に祀られているとは。
壁に展示された社長の色紙と帽子。時々お店に現れることもあるようです。
「社長はカレー屋を200店舗まで増やす予定らしいですよ」と、驚きの情報が店員さんによってもたらされました。「帽子、足りるんですか?」「はい、全然足りると思います。すごいたくさんありますから」 カレー代はもしかしたら社長の帽子代になるのかもしれません。
ナプキンなどには社長のかわいいイラストが。鼻孔以外は似てないとか言えない空気です。
ちなみに店内の各所、紙ナプキンやテーブルに敷かれた紙には帽子をかぶった社長のキャラが描かれていて、かなりかわいく描かれています。アパホテルに泊まると、社長の立志伝の漫画が部屋に置かれていますがその漫画に負けない美化されぶり。カレー屋だけど加齢とは無縁の社長をこれからも応援したいです......。
1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。