2017/3/10

映画「残されし大地」/被曝量は世界一 死んだら献体するつもり

(c)CVB / WIP /TAKE FIVE - 2016 - Tous droits reserves

福島県双葉郡富岡町。福島第一原発の事故で大量の放射性物質が降り注ぎ、避難指示区域に指定された町である。ほとんどの住民は指示に従い、安全な場所に避難した。そんな中、あえて町にとどまり続けた人がいる。

松村直登さん。一旦妹の住む実家に逃れたが、放射能汚染を気味悪がられた。避難所も満杯だった。仕方なく戻ってくると、見捨てられた犬や猫、ダチョウがいた。世話をしなければと思い、そのままとどまる決意をした。

原発は絶対安全と言われ信じていた。だが、手ひどく裏切られ、怒りが燃え上がった。海外メディアの取材を受けるうちに、自らも積極的に反原発のメッセージを発信するようになった。スイスなど海外のイベントに招かれ、講演も行っている。

復興なんてあり得ない

「残されし大地」は松村さんの日常生活に焦点を当てたドキュメンタリーだ。松村さんと同様にこの地にとどまった老夫婦、避難指示解除後に帰還すべく自宅のリフォームや除染を行う熟年夫婦も紹介している。

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松村さんは復興について悲観的だ。「将来戻ってくるのは2割か3割、それも年寄りばかりだろう。復興なんてあり得ない。1回は死の町になって、そこからの復興だ」。それでも町を離れる気はさらさらない。避難先ではストレスで何百人もの人が死んでいる。たとえ汚染されていても生まれ育った故郷で、好き勝手に生きたほうがいいと思っている。

外国からの来客が、松村さんの自宅の周囲で線量計の値を読み上げる。0.9ミリシーベルト、場所によっては1.8ミリシーベルト。「松村さんの被曝量は世界一だ」。死んだら献体するつもり。電力会社の社員にそう言ったら「貴重な資料になるでしょう」と答えたそうだ。まるで他人事である

チェルノブイリと並ぶ、史上最悪の原発事故。いまだ収束の道筋が見えない状況にあって、はたして復興の日などくるのか。

ラスト、ゆっくりと移動するカメラが、人気のない町を映し出していく。ガソリンスタンド、書店、ドラッグストア、駐車場──。ナレーションも音楽もなく、ただ風景を見せただけの映像が、原発の恐ろしさと罪深さを鮮烈に訴えかける。

ベルギーの地下鉄テロで非業の死を遂げたジル・ローランの初監督作にして遺作となった作品。ローラン監督の付けた原題は「見捨てられた大地」だったが、福島の人々への配慮から「残されし大地」としたそうだ。

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「残されし大地」(2016年、ベルギー)
監督:ジル・ローラン
出演:松村直登
2017年3月11日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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