映画「健さん」/これまで知ることができなかった高倉健を明らかにしたドキュメンタリー
(c)2016 Team"KEN SAN"
遅咲きのスターである。デビューは1956年と早いが、なかなか芽が出なかった。所属する東映では、同世代の中村錦之助(後に萬屋錦之介)や大川橋蔵らの活躍を横目で見ながら、ひたすらB級作品に出演し続けた。ブレークしたのは60年代の半ばだ。映画産業は斜陽期を迎え、東映は看板の時代劇から撤退。起死回生の一手として打ち出した任侠路線に、高倉健の個性がピタリとはまった。時代劇では弱点だった三白眼が武器となった。
"殺され役"の心得を説かれた
「日本侠客伝」、「網走番外地」などのシリーズで人気が沸騰。東映を背負って立つ看板スターとなる。70年代に東映を飛び出しフリーになると、出演作品を厳選。存在感あふれる芝居で称賛を浴び、名実ともに日本を代表する俳優となった。英語に堪能なこともあり、ハリウッド映画でも活躍。中国のチャン・イーモウ(張芸謀)監督作品では主役を演じた。2014年に逝去するまで、国民的大スターであり続けた。
(c)2016 Team"KEN SAN"
寡黙な人だった。公の場で多くを語ることはなく、取材も滅多に受けなかった。そのため著名人でありながら、驚くほど情報が少ない。そもそも、映画スターはスクリーンの中だけに存在するもの。だとすれば、高倉は典型的な映画スターだった。しかし、ファンならば知りたい。高倉健にとって、映画とは何だったのか。人生に何を求め、どんな生き方をしたのか――。
本作は、国内外の著名人や裏方スタッフなど、さまざまな人物の証言を通し、これまで知ることができなかった高倉健の実像を明らかにした、初のドキュメンタリー映画である。
(c)2016 Team"KEN SAN"
マイケル・ダグラスは、共演した「ブラック・レイン」(89)で見せた高倉の演技がいかに素晴らしいかを力説する。八名信夫は「最初から殺されに行くな。殺すつもりで行って、殺されるんだ」と、高倉から"殺され役"の心得を説かれた思い出を語る。監督の澤島忠は「人生劇場 飛車角」(63)で大役を得た高倉が「どう演じていいか分からず悩んでいた」と明かす。これらのエピソードは、演技者・高倉健に対する見方を確実に変えるはずだ。
ほかにも高倉がある理由で酒を飲まなかったこと、遅刻しても平然としていたこと、異常なまでに猜疑心が強かったことなど「健さん」のイメージとはかけ離れた話が、高倉と親交を結んだ人々から披露される。いずれも親しい間柄だからこそ知り得た情報であり、人間・高倉健を理解する上で貴重なエピソードばかりである。
「どんな大声を出しても、伝わらないものは伝わらない。むしろ言葉が少ないほうが伝わると思う」。作中で高倉健が語っている。高倉が伝えたかったことは何だろう。本作の中に答えはあるかもしれない。
「健さん」(2016年、日本)
監督:日比遊一
出演:マイケル・ダグラス、ポール・シュレイダー、ジョン・ウー、澤島忠、梅宮辰夫、降旗康男、山田洋次、八名信夫
2016年8月20日(土)、渋谷シネパレス、新宿K's cinema ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。