映画「あなた、その川を渡らないで」/チン・モヨン監督インタビュー 話題の夫婦の純愛物語ができるまで
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韓国映画「あなた、その川を渡らないで」が2016年7月30日公開される。韓国東北部の小さな村を舞台に、98歳の夫と89歳の妻、結婚76年目の日々を追ったドキュメンタリー。長編デビュー作となるチン・モヨン監督は「(日常の)小さな思いやりが愛する人に与える意味を、作品を観る人に分かってほしいと思った」と語った。
老夫婦の日常を淡々と追った作品。韓国では14年秋の公開後、口コミで評判が広がり、韓国でドキュメンタリー映画としては過去最高の約480万人を動員した。
「天国でも着られるように」と服をたき火で焼く
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江原道横城郡古時里。山に囲まれた静かな集落に、おじいさん(チョ・ビョンマン)とおばあさん(カン・ゲヨル)は暮らしている。四季折々に表情を変える自然。市場での買い物、老人会の遠足、花畑での散策。二人の生活はつつましく穏やかだ。チン監督は一人、1年3か月にわたって夫妻の日常にカメラを向けた。
「二人がなるべく話しやすいように、環境作りに心を配りました。大勢のスタッフを連れて押しかけるのは避けたかったのです。夫妻の家まで行ったり来たりしながら、一人で撮り続けました」
二人は村に市が立つと、毎日着ているおそろいの民族衣装・韓服で出かけていく。おばあさんが作った食事を、おじいさんはおいしそうに食べる。2匹の飼い犬をかわいがり、春には一緒に花を摘み、冬は雪とたわむれる。笑い声が絶えない家。ありふれているようにみえるが、誰もが夢見る夫婦の姿ともいえる。現実世界でいかに人は傷付け合っているか。改めて実感させられる関係でもある。
「二人は特別なことをしているわけではありません。一緒にご飯を食べる。手をつないで市場へ行く。小さなことに一生懸命で、常に相手を思いやっている。出かける時は髪をきちんととかすなど、人目につかないところで毎日を丁寧に過ごしている。ささいなこと、小さな思いやりが愛する人に与える意味を、作品を観る人に分かってほしいとも思いました」
チン・モヨン監督
76年の結婚生活がずっと順風満帆だったわけではない。二人には12人の子に恵まれたが、うち6人を幼いうちに亡くしている。たまに集まる子供たちも、年老いた両親を心配して口論を始める。おじいさんの体は徐々に弱っていき、おばあさんは心を痛める。「天国でも着られるように」とおじいさんの服をたき火で焼く。そんな二人の姿に、韓国の若い世代が心を動かされた。観客の約4割が20代だったという。
「韓国では今ほど若者が困難を感じている時代はありません。就職難で経済的に困窮しています。苦しくても恋愛はしたいが長続きしない。悩む彼らの理想を76年続けている二人が目の前にいたのです。幻想ではなかったんだ、自分にもできるんだ。若者たちは憧れ、映画を観て確かめたのではないでしょうか」
(聞き手・写真 遠海安)
「あなた、その川を渡らないで」(2014年、韓国)
監督:チン・モヨン
出演:チョ・ビョンマン、カン・ゲヨル
2016年7月30日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。