映画「ひと夏のファンタジア」/2つのストーリーを2部構成で描く日韓合作映画
奈良県五條市を舞台にした日韓合作映画「ひと夏のファンタジア」が、渋谷ユーロスペースほかで公開されている。韓国チャン・ゴンジェ監督の長編3作目。日本から岩瀬亮、韓国から女優のキム・セビョクが主演している。
2012年、奈良県の「なら国際映画祭」による若手監督支援プロジェクト「NARAtive」に選ばれたチャン監督が、日本と韓国の俳優、スタッフで製作した。奈良県出身の河瀬直美監督が製作を担当している。
日韓とも上映後の反応はすこぶるいい
設定や役柄が異なる二つのストーリーを2部構成で描く。いずれも岩瀬とキムが主演。1部は韓国から五條に調査に来た映画監督テフン(イム・ヒョングク)が、日本語を話す助手のミジョン(キム)とともに、市の観光課職員・武田(岩瀬)の案内で町を歩く。古い喫茶店、廃校、一人暮らしのお年寄りの家を周る。滞在最後の夜、不思議な夢を見たテフンは、窓の外に上がる花火を見る。
2部は韓国から五條に来た女性ヘジョン(キム)が、観光案内所で出会った柿栽培農家の青年・友助(岩瀬)と、五條の古い町を歩く。「ひとりになる時間が必要だった」と話すヘジョン。初対面から彼女にひかれた友助は、徐々に距離を縮めようとする──。
韓国から来た異邦人が、偶然に導かれるまま日本の田舎町を歩く。山に囲まれた五條には、ゆったりとした空気と時間が流れている。ささやかで穏やかなロードムービーの趣。チャン監督によると、1部の脚本は撮影前から固まっていたが、2部の内容は現地で決めていったという。
「もともと二つのエピソードを盛り込むつもりだった。一つ目は自分自身の話。もう一つは歴史に興味がある韓国人女性の話。二人にそれぞれ二役を演じてもらったのは、時間と予算的な制限があったから。日本に来てから思いついた」
キムが演じたミジョンとヘジョンは、ともに「日本語ができる」設定。日本語のせりふが多い撮影をキムは「大変だった」と振り返る。
「きつかった。だからこそ撮れたとも思う。上映後に観客の意見を聞くと『友助とヘジョンの沈黙のシーンが気に入った』と言ってくれる人が多かった。あの沈黙は、私の日本語が流暢なら生まれなかった。監督が沈黙に気付き、演出で生かしてくれた」
監督と共演女優、韓国の二人にはさまれた岩瀬は、自然体で挑んだ。海外作品への出演は初めて。「日本語、韓国語、つたない英語」が飛び交う現場を楽しんで過ごしたという。映画祭を通じて知り合ったチャン監督とは、長い付き合いの友人同士だ。「日本と韓国の違いというより、チャン監督独自の撮影手法が新鮮だった」と話す。
チャン監督によると、日韓とも上映後の反応はすこぶるいいという。韓国から舞台になった奈良を旅行で訪れる人もいるそうだ。
「韓国では20代の女性の観客が多かった。旅先の外国で生まれるロマンスが受けたのだろう。日本では自分の故郷への懐かしさを、五條に重ねた人が多いように感じた」
日本と韓国、五條の山並み。静かに流れる空気と時間が、観る者を包み込む作品だ。
監督:チャン・ゴンジェ
出演:キム・セビョク、岩瀬亮、イム・ヒョングク、康すおん
2016年6月25日(土)から渋谷ユーロスペースでレイトショー。シネ・ヌーヴォ(大阪)ほかで全国順次公開中。作品の詳細は公式サイトまで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。