英ロンドン北部のエンフィールド。シングルマザーのペギー・ホジソンと子供4人は、室内の奇妙な物音に悩まされていた。あろうことかある日、家具が勝手に動き出し、家族を攻撃するようになる。テレビが取材に訪れたところ、11歳の次女ジャネットが怒り出し「出て行け」と老人のような声を出した──。
一時は「ホラー引退」も口にしたワン監督
「ソウ」シリーズのジェームズ・ワン監督作「死霊館」(13)の続編。1977年に英国で起きた「エンフィールド事件」をベースにした実録ホラーだ。前作に続いてパトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが、超常現象の解明を依頼された米研究家ウォーレン夫妻を演じる。
冒頭でやはり1965年に米で起きた「デフェオ一家殺害事件」が取り上げられる。家に取り憑いた霊をみるショッキングな描写で、過去には映画「悪魔の棲む家」(79)の題材にもなった。続いて舞台はエンフィールドへ。ホジソン家の次女ジャネットの霊憑依を時系列で描いていく。
ワン監督の演出は正攻法で丁寧だ。ホジソン家で発生する超常現象を一つ一つ積み重ね、事件の全体像を観客が納得できるように提示する。ウィリアム・フリードキン監督「エクソシスト」(73)同様、あくまでリアリティーを追求している。こけおどしのショック演出とは正反対に、ドラマと恐怖を融合させ、作品に緊張感を与える。
「エクソシスト」との共通点も多い。時代設定に加えて、少女に霊が憑くことで表れる奇妙な行動。場所は住宅密集地の室内で、外は平和な町並みが人がる。静と動の対比により、ホジソン家で起きている異常事態を際立たせる仕組みだ。
巧みな演出は恐怖シーンにとどまらない。全体にピンと緊張の糸を張る一方で、さりげなくなにげない日常風景をはさみ込む。クリスマスの日。パーティーの席でエルビス・プレスリーの「好きにならずにいられない」が弾き語りされる。優しい歌声に心がなごむ。うまい緩急の付け方だ。
ワン監督は実録物の制約の中、事件全体を忠実になぞりつつ、真正面から破綻させずにドラマを積み上げだ。一見古風な作風だが、最新技術も十分に投入。屋外から室内への継ぎ目ない撮影、大胆なCG(コンピューター・グラフィックス)。映画ならではの想像の翼を羽ばたかせている。一時は「ホラー引退」も口にしたワン監督だが、饒舌な語り口は健在だ。説得力あるドラマ、ショック演出、美しい幕引き。監督としてピークに到達した印象すら受ける。
「死霊館 エンフィールド事件」(2016年、米国)
監督:ジェームズ・ワン
出演:ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、フランシス・オコナー、マディソン・ウルフ、フランカ・ポテンテ
7月9日より全国順次公開中。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。