映画「ホース・マネー」/ペドロ・コスタ監督に聞く
独特の映像美と視点で知られるポルトガルの鬼才、ペドロ・コスタ監督。最新作の「ホース・マネー」を含め、リスボンのスラム街を舞台にした3部作が現在、東京・渋谷のユーロスペースで上映されている。
「ホース・マネー」(14)、「ヴァンダの部屋」(00)、「コロッサル・ユース」(06)の3作品。いずれも首都リスボンのスラム街、フォンタイーニャス地区に住む人々を、少人数のスタッフで撮っている。
「ホース・マネー」は前作の「コロッサル・ユース」同様、アフリカ西海岸のカーボ・ヴェルデからの移民男性、ヴェントゥーラが主人公。ポルトガルの独裁体制を終わらせたカーネーション革命、アフリカ諸国の独立などの近代史を、一人の男の記憶を通じて浮かび上がらせる。
映画が歴史に一番似ている
ヴェントゥーラの人生は終わりに近づいている。地下の暗い階段を降りていく。手は震えている。病室のベッドに横たわる。親せきや知人が訪ねてくる。体に力はなく、最期の時を待つようだ。医師に年齢を問われ「19歳3カ月」と答える。彼の意識はどこにあるのか。
生まれ故郷カーボ・ヴェルデ出身の女が現れる。「ポルトガルにいる夫が死んだ」という。ヴェントゥーラは「病気だがまだ生きている」と返す。女は「あんたは地獄に向かう旅の途中だ」と言い放つ。ヴェントゥーラの故郷の家は壊れた。飼っていた馬も死んだ。カーボ・ヴェルデの人々の生活は苦しいままだ。
森の中。武装した兵士たち。廃墟になったレンガ工場。つながらない電話。病院の無機質なエレベーター。兵士が繰り返し尋ねる。「ヴェントゥーラ、今どこにいる?」。兵士はいったい誰なのか──。
作品に現れるモチーフは明確な「意味」を提示しない。何かの象徴であることも示唆しない。あるのはただヴェントゥーラの肉体と言葉。事象は彼の過去へ飛ぶ鍵に過ぎない。観客は断片的で圧倒的な映像に目を凝らし、せりふの持つ意味を探ろうとする。コスタ監督は言う。
「『ホース・マネー』ではヴェントゥーラの最もつらい過去を語った。映像の中に入れてしまえば、過去は彼を後ろから襲うこともないだろう。撮ることですべて体から出すことが大事だと思った」
ポルトガルにおいて、カーボ・ヴェルデから来た移民はマイノリティーであり、人々の話題になることもないという。
「彼らについて語る意味があると思った。過去について考え、過去が自分たちにどう影響しているか。いつも目の前に語るべきものがある。私は歴史を学んできた。すべての芸術表現の中で、映画が歴史に一番似ていると思う」
監督:ペドロ・コスタ
出演:ベントゥーラ、ヴィタリナ・バレラ、ティト・フルタド、アントニオ・サントス
渋谷・ユーロスペースほかで全国順次公開中。「ヴァンダの部屋」は7月2日(土)~7月8日(金)、「コロッサル・ユース」は7月9日(土)~7月15日(金)、ユーロスペースで35ミリフィルム上映。作品の詳細は公式サイトで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。