カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を獲得した「ディーパンの闘い」。スリランカ内戦を逃れ、偽装家族とともにパリに生きる男の半生を描く。監督は「君と歩く世界」(12)のジャック・オディアール。
内戦続くスリランカ。武装組織「タミル・イーラム解放の虎」の兵士・ディーパン(アントニーターサン・ジェスターサン)は妻と娘を殺され、すべてを失った。難民キャンプで会った女ヤリニ(カレアスワリ・スリニバサン)、母を亡くした少女イラヤル(カラウタヤニ・ビナシタンビ)と「偽装家族」になり、欧州へ移り住む決意をする。
生きるために「家族になった」女性と少女
たどり着いた先のパリ。ディーパンは集合住宅の管理人、ヤリニは老人ハビブの家政婦として働き始め、イラヤルも学校に通い始める。日中は外で家族を装い、夜は家で他人に戻る。それぞれに過去を心に秘めながら、必死で日々を過ごしていた。
それぞれが新しい暮らしに慣れ始めた時、ディーパンに「タミル・イーラム解放の虎」のかつての上官が接触してくる。祖国のための武器調達を命じられたディーパンだったが「私の戦いは終わっている」と拒否。新しい人生のため、武器を捨てる決意を新たにする。
ところが、ディーパンらが住む集合住宅で、麻薬密売組織の抗争が勃発。銃撃戦に巻き込まれたヤリニは「もうここには住めない」と取り乱し、ディーパンとイラヤルを置いて家を出るが──。
内戦のため国と捨てた男が、新天地を求めてパリへ移住する。住み着いた場所で再び争いに巻き込まれる。シリア内戦、難民の欧州移住、パリ同時多発テロ──。過酷な過去を胸にしまい、祖国を後にしたディーパンと、生きるために「家族になった」女性と少女。ディーパンたちの道筋に、現実世界を重ねずにいられない。
ディーパンを演じたアントニーターサン・ジェスターサンは、実際に「タミル・イーラム解放の虎」の少年兵だった。16歳から19歳まで戦いに身を投じた後、タイを経て仏に政治亡命。今は作家として活動している。今回初の映画出演となった。
暴力の連鎖、移民の過酷な生活。厳しい生活の中、ディーパンら「家族」が必死で希望を追う姿に、胸を締め付けられる。
「ディーパンの闘い」(2015年、フランス)
監督:ジャック・オディアール
出演:アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ビナシタンビ、バンサン・ロティエ
2016年2月12日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。