路上を逃げ惑う少女。追いかける男たち。やがて少女は捕まり、顔を粘着テープでぐるぐる巻きにされ、窒息死する。いかにもキム・ギドク監督らしいショッキングな幕開けだ。
少女の名はミンジュ。彼女はなぜ殺されたのか、殺人に関与した7人の男たちは何者なのか。説明のないまま、物語は1年後へと飛ぶ。
ラストの衝撃度は「嘆きのピエタ」(12)にも比肩
今度はミンジュを殺した集団とは別の一団が登場する。同じく7人組で「シャドーズ」と名乗る彼らは、加害者たちを格下の者から順に、一人ずつ密室に拉致しては、拷問を加えていく。激烈な痛みに耐えかね、加害者たちはあっさり犯行を自白していく。
少女殺しは上からの指示に従っただけ。自分たちの意思ではない。加害者たちの口から飛び出す言葉は、ニュルンベルク裁判におけるナチス高官の弁明を思わせる。命令に逆らえば自分の命がない。だから殺した。そういうことなのだろう。背後には不気味な国家権力の影が見え隠れする。
一方、加害者を責め立てる「シャドーズ」は、リーダーを筆頭に、不遇の生活を送る者ばかりで構成される。客から屈辱的な扱いを受けているウェイター、米国の名門大学を出たが職に就けない男、恋人から暴力を受けている女、友人に金を詐取され路上生活を送る男......。
つまりこの映画は被支配者による支配者への挑戦と見ることができる。しかしたった7人のグループが、国家権力に対抗できるわけがない。最後に拉致した大物もまた、巨大な権力構造の小さな歯車に過ぎなかった――。
「シャドーズ」とミンジュとの関係が明かされる終盤からの急展開が圧巻だ。ラストの衝撃度は「嘆きのピエタ」(12)にも比肩するだろう。韓国社会を風刺しているようだが、日本にも米国にもこういう構造はある。誰もがミンジュのように殺されるかもしれないのだ。
「殺されたミンジュ」(2014年、韓国)
監督:キム・ギドク
出演:マ・ドンソク、キム・ヨンミン、イ・イギョン、チョ・ドンイン、テオ、アン・ジヘ、チョ・ジェリョン、キム・ジュンギ
2016年1月16日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。