1954年3月1日、太平洋中部のビキニ環礁で、米国が核実験を行った。操業中のマグロ漁船「第五福竜丸」は、大量の放射性物質を浴び、半年後に無線長だった久保山愛吉氏が死亡。ほかの乗組員も重度の肝機能障害を起こした。
誰もが知っている第五福竜丸の悲劇である。1959年に作られた新藤兼人監督の同名映画も見た人も多いだろう。怪獣映画「ゴジラ」(54)にインスピレーションを与えたことも有名だ。
だが、放射線が降り注いだのは第五福竜丸だけではない。太平洋上での核実験は100回以上あった。当然ほかにも多数の漁船が被曝した。しかし政府の対応はおざなりで、メディアも深く追及しようとはしなかった。風評を恐れてか、漁師たちも声を潜めた。こうして真相は覆い隠された。
父親もマグロ漁船に乗っていた。もしや......。
そんな歴史の闇に光を当てたのが、ローカルテレビ局のディレクター、伊東英朗だった。事実を探るべく、高知県の港町で地道な調査を続けていた教師や高校生たち。伊東は彼らの足跡を追い、ついに放射能汚染の全貌を記した機密文書へとたどり着く――。
そのプロセスを記録した作品は、テレビのドキュメンタリー番組で放送され大きな反響を呼び、「放射線を浴びたX年後」(2012)として映画化。「放射線を浴びたX年後2」は続編である。
今回スポットが当てられているのは、36歳で急逝した漁師の娘である川口美砂氏。幼い頃から父は「酒の飲み過ぎで早死にした」と言い聞かされていたが、「放射線を浴びたX年後」を見て、死因に疑念を抱く。父親もマグロ漁船に乗っていた。もしや......。川口氏は元乗組員や遺族たちと会い、一歩一歩真相に迫っていく。そして判明するおそるべき事実。
前作に登場した高校教師から、川口氏が「X年後」のバトンを引き継ぐ形となった。作品が人を覚醒させ、行動に駆り立てる――。ドキュメンタリー映画の一つの理想形をここに見る。
「放射線を浴びたX年後2」(2015年、日本)
監督:伊東英朗
2015年11月21日(土)、ポレポレ東中野ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。