中国から韓国への密航大量死事件を描いた「海にかかる霧」。「グエムル 漢江の怪物」(06)のポン・ジュノ監督の初プロデュース作品だ。ポン監督の「殺人の追憶」(03)で脚本を書いたシム・ソンボの監督デビュー作となった。
2001年に実際に起きた「テチャン号事件」をベースにしている。密航を請け負った韓国漁船で、乗っていた中国人60人のうち25人が船内で窒息死。船員らが遺体を海に遺棄した事件である。
不況にあえぐ韓国のある漁村。船員6人を抱える漁船の船長チョルジュ(キム・ユンソク)は、生活のため中国人の密航を請け負った。ところが海上で悪天候に見まわれ、急きょ荒れ狂う雷雨の中、中国船から密航者を受け入れることに。チョルジュは中国人を甲板に乗せ、いざとなったら生けすに隠すつもりでいた。ところが、海上警察の査察でトラブルが発生。事態は思わぬ方向へ展開する──。
「タイタニック」さながらの純愛を貫く
密室状態の船でチョルジュは絶対的な権力者となる。劣悪な環境に不満を募らせる中国人に、見せしめのように暴力をふるう。一方、新人船員ドンシク(パク・ユチョン)は、女性密航者のホンメ(ハン・イェリ)に淡い恋心を抱く。暖かい機関室に彼女を隠し、特別扱いを始める。実際の事件で密航者は男性だけだったが、女性を入れたことでドラマが波立つ。
シム監督の演出は、デビュー作と思えぬほど力強い。登場人物の内面を掘り下げた心理描写。極限に追い込まれた船員たちの精神の崩壊。人間ドラマにスリル、サスペンス、さらにロマンスを加味した。人気グループJYJのユチョン演じるドンシクは、「タイタニック」(97)さながらの純愛を貫く。一方で権力を振りかざすチョルジュは怪物に変貌。ホラー映画さながらの恐怖と狂気が入り乱れ、パニック映画「ジョーズ」(75)さながらの緊迫感だ。
暴力的で凄惨なシーンが多く、後味は悪い。しかし、切ないメロドラマを加えたことが浄化作用を誘発し、作品に奥行きを与えた。作家のセンスを感じる。
「海にかかる霧」(2014年、韓国)
監督:シム・ソンボ
出演:キム・ユンソク、パク・ユチョン、ムン・ソングン、キム・サンホ、イ・ヒジュン
2015年4月17日(金)、TOHOシネマズ新宿で先行上映。同24日(金)から全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。