2014/11/ 9

映画「0.5ミリ」/天性の"じじいキラー" たくましく生き抜くホームレス介護ヘルパー

失業してホームレス状態になった介護ヘルパーが、街で見つけたワケあり老人たちのもとに押しかけて生きていく――。ヘルパーと孤独な老人たちとのふれあいを通し、生きることの意味を問いかける映画「0.5ミリ」。2010年に「カケラ」でデビューした安藤桃子(モモコから改名)監督が、実妹の安藤サクラを主演に、自作の小説を映画化した。

ハードな仕事に文句も言わず、手も抜かず、老人の世話に明け暮れる介護ヘルパーのサワ。ある日、老人の娘から「冥土の土産に、おじいちゃんと寝てやって」と頼まれる。添い寝するだけという条件で床に入るが、寝たきりとはいえ相手は男。露骨なセクハラを仕掛けてくる。抵抗し、もみ合ううちに、石油ストーブが倒れ出火。火はあっというまに家中に燃え広がる。あわてふためくサワに追い打ちをかけるように、老人の娘は首つり自殺してしまう。

火事の責任を負わされたサワは失職し、寮も追い出される。だが、ここからサワは持ち前の対人スキルを発揮し、たくましく生き抜いていくのである。

安藤桃子監督の脚本力、演出力の賜物

カラオケ店員ともめている康夫。駐輪場でタイヤをパンクさせている茂。書店でエロ写真集を万引きする義男。それぞれ問題をかかえる老人に次々と近づいては懐に飛び込んでいく。やり方は強引であり、時に脅迫めいたこともする。いかがわしい感じもする。当然、初めは警戒される。しかし、やがてサワに邪心のないことが分かると、老人たちはすっかり彼女の虜となってしまうのだ。天性の"じじいキラー"なのかもしれない。

老人たちはみな孤独であり、話し相手もいない。そんな彼らの家に居候する代わりに、かいがいしく世話を焼くサワ。手作りの食事をふるまい、詐欺師から財産を守り、寝たきりの妻に生気を戻す――。かくして、老人たちは再び人生の輝きを取り戻すことになる。

サワは決して明朗快活な女性というわけではない。どことなくかげりがある。素性が語られることはないが、世話をする老人たちと同様、ワケありな女性のようだ。どんなワケなのかはラストで示唆されるが、この得体の知れない感じが、サワの独特な魅力となっていることは間違いないだろう。

他人の心にするりと入り込むキャラクターは、「愛のむきだし」(09)で演じたコイケ役を彷彿とさせる。安藤の持ち味が生かしやすい役柄なのだろう、会心の演技を見せている。そんな安藤に触発されたか、茂役の坂田利夫や義男役の津川雅彦も好演。特に坂田利夫の演技は絶品だ。3時間超の長尺ながら、無駄のない構成とテンポよい語り口で一気に見せる。安藤桃子監督の脚本力、演出力の賜物である。


「0.5ミリ」(2014年、日本)

監督:安藤桃子
出演:安藤サクラ、柄本明、坂田利夫、草笛光子、津川雅彦
2014年11月8日(土)、有楽町スバル座ほかで全国公開。高知城西公園内「0.5ミリ」特設劇場で先行公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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