1980~90年代に隆盛を誇った家庭用ビデオ規格"VHS"。今世紀に入りDVDに主役の座を奪われ、文字通り前世紀の遺物となり果てた感がある。ところが、そんな時代の流れに逆らうように、いまだVHSに執心する人々が多数存在する。VHSの何が彼らをひきつけるのだろうか?
それで映画を「所有できる」とさえ思った
観客を劇場から解放し、自由な時間に映画を鑑賞できるようにしたこと。低予算で映画を製作し、収益を上げられるようにしたこと。ビデオのレンタル・ショップという新業態を生み出したこと。家庭でポルノが見られるようにしたこと。「VHSテープを巻き戻せ!」は過去の功績を紹介しつつ、今も色あせないVHSの魅力に迫る。ビデオ収集家、プログラマー、映画作家、女優など、映像に関わるさまざまな人々が、入れ替わり立ち替わり登場。熱い思いを語っていく。
膨大なコレクションを自慢し、お勧め作品について熱弁をふるうオタクな人々。目を輝かせてB級映画を称える姿に大笑いしつつも、共感させられるのは、何百本ものVHSを所有していた過去の自分が重なるためだろうか。1本数万円で買ったこともある。それで映画を「所有できる」と思えば、高くはないと思ったのだ。
また、VHS作品はDVD化されていないものも多い。その意味で、彼らコレクターは映像文化の継承者とも言える。CDの時代にLPレコードが生き残ったのは音質の良さゆえだが、VHSが生き延びているのは、コンテンツの希少性による。
アトム・エゴヤン、押井守、いまおかしんじ、バクシーシ山下といった映画作家、ホラーコメディー「エルヴァイラ」(88)で有名な女優カサンドラ・ピーターソン、「ビデオがなかったら女優にならなかった」と語る中原翔子など、出演者が多彩かつ豪華。VHSの支持基盤の厚さが窺える。
ソニー"ベータマックス"対ビクター"VHS"の覇権争いに言及したくだりなど、「VHSなんて知らないよ」という世代も興味深く見ることができるだろう。海賊版ビデオ、ジャケットデザイン、画面の"横筋"などのトピックも満載。映画を愛する人は必見である。
「VHSテープを巻き戻せ!」(2013年、米国)
監督:ジョシュ・ジョンソン
出演:アトム・エゴヤン、ロイド・カウフマン、カサンドラ・ピーターソン、押井守、中原翔子、いまおかしんじ
2014年7月26日(土)、渋谷アップリンクほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。