日台合作映画「南風」 萩生田宏治監督に聞く/言葉は通じなくてもやりたいことを伝えるのは本当に大事なこと
日本と台湾の合作青春映画「南風」が2014年7月12日公開される。台湾を訪れた日本人女性が人々や風景に触れ、行くべき道を見つけるロードムービー。「コドモのコドモ」(08)以来6年ぶりの新作となった萩生田宏治監督は「台湾の匂い、風を体感してほしい」と語った。
夏。雑誌編集者の藍子(黒川芽以)が取材で台湾を訪れ、16歳の少女トントン(テレサ・チー=紀培慧)に出会い、自転車旅行に出発。美しい風景や食べ物、人々の温かさに触れながら、自分を見つめ直す。台湾北西部をぐるりとツーリングし、名所や景勝地を紹介していく。
「帰郷」(04)、「神童」(07)などの萩生田監督にとって初の合作映画で、スタッフ、キャストは日台混合チーム。若手俳優の初々しさ、夏の風景が爽やかな作品となった。
台湾の人々は日本人に嫌な顔はしない。でも絶対それだけじゃない
「7月の一番いい時期に撮りました。準備期間が短かったので、思い切って行ってみて、その場で何ができるか試したい気持ちもありました。前に助監督としてついた林海象監督が台湾に縁が深く、ロケ撮影で来たこともあります」
初めて単独でメガホンを取った台湾。文化の違いや時間の感覚、仕事の進め方には戸惑うこともあったという。
「言葉が通じない人たちとの作業。『あうん』の呼吸で動くのではなく、しっかりと説明しなければだめだな、と。自分の意志を伝えたい気持ちが、一緒にいればいるほど湧くように出てきました。エネルギーを出していく自分が面白い。言葉は通じなくてもやりたいことを伝えるのは本当に大事なんだな、と」
俳優は台湾からテレサ・チーのほか、旅先で出会う青年役でコウ・ガ(黄河)を起用した。二人はドラマ「危険心霊(原題)」(06)で共演した旧知の仲。オーディションで息の合った様子を見せたため、採用を決めたという。
「二人は台本を渡せばすぐ演技に入っていきました。説明してもなかなか芝居にならない人もいるけれど、彼らは感受性、感覚がいい。通じ合える回路がある」
台湾各地をめぐる旅には、日本統治時代の痕跡も随所に出てくる。たとえば台湾北西部・苗栗県の「龍騰断橋」跡。1908年、台湾総督府鉄道(当時)が建設したレンガ製の鉄道橋だ。現在は朽ちて崩れかけているが、主人公たちはその壮大な光景に息をのむ。台湾と日本の関係について、監督は語る。
「台湾の人々は表面的には(日本人に)嫌な態度をする人はいません。でも絶対にそれだけではないだろうし、彼らの心情を掘っていけば、複雑なものも出てきたかもしれません。日本とアジアの国々は歴史的にいろいろあったが、今どう付き合うかが大切ではないでしょうか」
台湾では聴覚障害のある青年が台湾を自転車で一周する映画「練習曲」(07)のヒットもあり、自転車ツーリングの人気が拡大している。監督は台湾の人たちと交流するうち「彼らの生まれた場所に寄せる思いが見えてきました」という。
「取材で話を聞いた人はみな、心から自分の国の美しい風景を見たいと思っていました。自分の国を自分のことのように考えている。台湾の再発見といいましょうか。撮影でも1週間ぐらい雨もふらず、信じられないような青空も見ました。台湾の匂いや風を体感してもらえればうれしいです」
監督:萩生田宏治
出演:黒川芽以、テレサ・チー(紀培慧)、郭智博、コウ・ガ(黄河)
2014年7月12日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。