深町秋生のデビュー推理小説「果てしなき渇き」の映画化である。「過激描写で映像化不可能」といわれた作品を、「告白」(10)の中島哲也が監督した。「告白」は少年の無邪気な残酷性を独特のビジュアルで描いた。今回はさらに激しい画の連続で、15歳未満は鑑賞できない「R15+」指定となった。
現在と3年前が交差しながら物語は展開する。失踪した娘・加奈子(小松菜奈)を血眼になって探す藤島昭和(役所広司)。藤島の現在の視点をメーンに、失踪の鍵となる3年前の出来事を、加奈子の中学生時代の同級生・ボク(清水尋也)の目で描く。学校でいじめられっ子のボクの現実逃避を、アニメーションで描いている。
登場人物は嫌なやつばかり
妻の浮気相手に暴行を加え、警察を辞めて離婚した藤島。警備会社に勤めていたが、深夜のコンビニで惨殺死体が発見され、第1発見者として取り調べを受ける。荒れ果てた安アパートに帰宅した藤島に、元妻・桐子(黒沢あすか)から「加奈子が失踪した」と電話が入る。娘のかばんから出てきたのは違法薬物、満面の笑みの娘と見知らぬ少年のツーショット写真だった。藤島は写真を手に高校の同級生(橋本愛)、中学の担任(中谷美紀)、かかりつけの医師(國村隼)らと接触を始める。
父親にとって天使の娘に、悪魔の顔があった。本当の姿を目の当たりする父親と、悪魔に魅入られてしまったボク。二つの顔を巧みに使い分ける加奈子は、表向きは優等生。裏で不良グループを操っていた。加奈子を演じる新人の小松は、純粋さと冷酷さを演じ分ける。役所はほぼ全編いらつき、ぶち切れ、物語をかき乱し、作品に異様なテンションを与える。藤島をあざ笑う元後輩として、妻夫木聡が珍しく嫌な役を演じている。
「告白」は沸点に向け青白く燃える炎のように、静かな狂気だった。対照的に「渇き。」は、自暴自棄で危うい精神バランスの父が、観客の感情を逆なでしながら、暴力と狂気をぶつけて暴走する。
中島監督は独自の映像で、少年少女が持つ無邪気な悪意、翻弄される大人たちを描き出す。薄暗い画面に差し込むぎらついた照明。効果的に挿入されるスローモーション。ポップな映像と音楽のリズム。CM制作出身だけに、短時間で観客の脳裏にインパクトある映像を焼き付ける。登場人物は嫌なやつばかり。俳優たちのあくの強い演技も効果的だ。
「渇き。」(2014年、日本)
監督:中島哲也
出演:役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、國村隼、黒沢あすか、青木崇高、オダギリジョー、中谷美紀
2014年6月27日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。