大林宣彦監督の新作「野のなななのか」が2014年5月17日公開される。北海道芦別市で撮影し、太平洋戦争の「終戦の日」、1945年8月15日以降も北海道で続いたソ連との戦争をモチーフにしている。忘れられた近現代史を掘り起こし、後世に継承していこうという試みだ。

北海道芦別市で古物商をいとなむ元病院院長・光男が92歳で亡くなり、離ればなれに暮らしていた家族が久しぶりに集まる。そこに現れた見知らぬ女によって、光男の過去がしだいに明らかになっていく。太平洋戦争が終結したあとソ連軍が侵攻した樺太で、彼は何を体験したのか──。

「野のなななのか」は旧炭坑町の芦別市を舞台に、知られざる戦争史をひもときながら生と死を問う作品。「なななのか」は四十九日を指す。生と死の境界があいまいなこの期間に、生きる者と死者が入り乱れ、過去と現在を行き来する幻想的な物語をつむぎ出す。

1億円のうち8000万円を市民らが出資

製作のきっかけは、芦別市と大林監督との20年にわたる交流だ。大林監督の故郷・広島県尾道市のように映画でまちおこしをしたいと考えた市役所職員（故人）の呼びかけで、1993年から大林監督を校長に「星の降る里芦別映画学校」を毎年開催。「野のなななのか」はその集大成となる。製作費約1億円のうち8000万円を市民らが出資した「市民の映画」だ。

今年3月、芦別市と同じ旧産炭地の夕張市で開かれたゆうばり国際ファンタスティック映画祭のクロージング作品として初上映。夕張を訪れた大林監督に話を聞いた。

──市民が製作を全面的にバックアップしたとのことですが。

芦別市民の映画をプロが手伝ったものだ。スタッフの半数が市民。撮影用の雪を作るとき、地元の人が「何時に降った雪かによってとけ方が違う」と教えてくれるなど、日々の暮らしを再現しながら撮影した。

──「野のなななのか」では教科書に載っていない近現代史が語られています。戦争体験をもつ監督が若い世代に歴史を伝える意味は大きいと思います。

新潟県長岡市が舞台の「この空の花　長岡花火物語」（12）と同様、地域の歴史を描いた「ふるさと映画」だ。「この空の花」は米英との敗戦史を、「野のなななのか」は太平洋戦争が終結した1945年8月15日以降も北海道で続いたソ連との戦争をテーマにした。

日本人は8月15日を「終戦の日」と言っているが、米英などは9月2日を戦勝記念日にしている。実はソ連は9月5日にかけてが北方四島を制圧している。北海道はソ連と米国によって南北に分断される可能性があったのだ。日本は忘れることで平和を手にしようとした。しかし多くの人が知らない事実がある。そこをきちんとしておこうと考えた。ドキュメンタリーでも劇映画でもない、エッセーや論文に近い映画だ。

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