2014/3/ 8

映画「ゼウスの法廷」/自分を裏切った元婚約者をエリート判事はどう裁くのか? 日本を揺るがす前代未聞の裁判

恵(小島聖)はエリート判事の加納(塩谷瞬・椙本滋)と婚約している。順調に出世コースを歩む加納は、世間的には申し分のない相手だ。だが常に仕事を優先させ、自分のことをないがしろにする加納に、恵は距離を感じ始めている。そんな恵の心の隙間に入り込んできたのが、学生時代に付き合っていた山岡(川本淳市)だった。同窓会で再会し、焼けぼっくいに火が付いたのだ。

加納との婚約を解消した恵は、山岡と逢瀬を重ねる。ところがある日、山岡の愛人と遭遇。言い訳する山岡と口論の末、もみあいになり、山岡を階段から転落死させてしまう。判事の元婚約者が起こしたスキャンダラスな事件。マスコミが加納に殺到し、裁判所は騒然となる。そんな中、加納は上司たちの反対を振り切り、恵の裁判の裁判長を務める決心をする――。

「ボタン開いてるよ」「開けてみたんですけど」

「ポチの告白」(05)で警察権力の闇を照らした高橋玄監督が、今度は司法権力の腐敗に鋭いメスを入れる。判例絶対主義。検察官と裁判官との癒着。有罪前提のスピード審理。裁判官たちはそれが異様なことだとは気付きもしない。「ゼウス(全能の神)の法廷」とは、なんとも皮肉なタイトルである。

加納は、もともと高い志をもって司法の世界に入った純粋な青年だった。それがいつのまにか立派な"ゼウス"と化している。平凡な庶民の恵が、加納に違和感を抱くのも当然だ。二人のかみ合わない感じを、高橋監督はユーモラスな言葉のやりとりで鮮やかに表現している。

たとえば、多忙にかまけて自分の体を求めようとしない加納に恵が業を煮やすシーン。

「ボタン開いてるよ」「開けてみたんですけど」
「出血してないの?」「昨日で終わってますから」
「ちょっと痛いんですけど」「もう少しだから」

絶妙である。全編ハードな内容だった「ポチの告白」と異なり、随所に笑いが散りばめられているが、硬派の社会派ドラマとは一線を画している。ただし、それはあくまで劇薬をくるむオブラートである。司法権力の不条理に対する怒りは激甚で、高橋監督の反権力のスタンスは少しも揺らいでいない。

圧巻は正義に目覚めた加納が、判事生命をかけて臨む恵の裁判シーン。恵と加納が初めて真正面から向き合い、本音をぶつけ合う。それは罪の審判であると同時に、愛の審判でもある。ラストは急転直下のハッピーエンド。誰もがそう思うだろう。しかし、その先に衝撃の幕切れが待っている。高橋監督の真骨頂とも言うべき最後の瞬間を、しかと見届けよ。

最後に一言。加納役を塩谷瞬が演じているが、声は声優の椙本滋が吹き替えている。二人一役。変則的なキャスティングの妙にも注目を。


「ゼウスの法廷」(2012年、日本)
監督:高橋玄
出演:小島聖、野村宏伸、塩谷瞬、川本淳市
2014年3月8日(土)、シネマート六本木ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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