元AKB48の前田敦子主演、山下淳弘監督作「もらとりあむタマ子」。テレビのCS放送向けに製作された30秒のイメージ映像が、好評を受けて長編映画化となった。前田演じるタマ子の日常を、四季に分けて断片的に描く。
東京の大学を卒業したタマ子23歳。就職せず故郷の甲府に帰ってきた。実家はスポーツ用品店。父(康すおん)が一人暮らしている。タマ子は開店後に起きてきて、店を手伝いもせず、食っちゃ寝を繰り返す。掃除、洗濯、食事も父に任せきり。漫画とテレビゲームに没頭する自堕落な引きこもり生活だ。
好物しか食べないタマ子は、父親が作った夕食を口にしない。夕方のニュースを見ては「だめだな、日本は」とつぶやく癖があるが、父に「お前の方がだめじゃないか」と言われると逆ギレする。友だちもおらず、客の中学生・仁(伊藤清矢)を手下のように扱う。
山下監督とは2作目
前田は昨年、山下監督の「苦役列車」に出演。「もらとりあむタマ子」の脚本を書いたのは、監督と学生時代からコンビを組む向井康介。アイドル出身の前田をきれいに、かわいく撮るのではなく、正反対の手法をとった。スクリーンに"アイドルあっちゃん"の姿はない。ボサボサ頭にジャージ姿、だらしなく無愛想、不機嫌な前田がいる。上映時間78分の半分は、自宅で展開する父とタマ子の二人芝居。逆ギレ演技はかなりリアルだ。
秋に始まるドラマは年を越し、春にタマ子の就職騒動がぼっ発。夏には父に恋人(富田靖子)が現れ、揺れ動くタマ子。1年を通して心の変化、成長を描いていく。前田と2作目で信頼関係を築いた山下監督。アイドルから脱皮させ、違う一面を引き出すことに成功した。前田自身も女優としてステップアップした印象だ。
自由奔放な娘に振り回される父役、康のひょうひょうとした演技、タマ子にあごでこき使われる仁役の伊藤がスパイスとなり、愛すべき小品に仕上がった。
「もらとりあむタマ子」(2013年、日本)
監督:山下敦弘
出演:前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美
2013年11月23日、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
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