交通事故で父を亡くした高校生・木下はつ実(吉倉あおい)は、母の惠子(朝加真由美)と郊外に引っ越してきた。ある日、はつ実は古紙回収で近所を回っていた野口隆太郎(柳楽優弥)と知り合う。一見ぶっきらぼうな隆太郎だが、はつ実のため街を案内する優しい青年だった。距離は自然と縮まり、二人は恋に落ちる。しかし誤解ですれ違いが続き、やっと再会した夜、隆太郎は感情を抑えきれずはつ実を襲ってしまう──。
はつ実にモデル出身の新人・吉倉あおい、隆太郎にカンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を「誰も知らない」(04)で受賞した柳楽優弥。監督・脚本の金井純一にとって初の商業映画となる。
恋愛に不器用な青年の危うさを好演
序盤は二人の出会いから、恋に発展する過程をみずみずしいタッチで描く。数回のデートを経て、隆太郎は「俺は親に捨てられた」と告白。はつ実は隆太郎を抱き寄せ、互いがかけがいのない存在に変わる。
しかし、帰宅したはつ実を母の容赦ない追及が待っていた。予備校に行かず、隆太郎とデートしていたことをとがめられ、母は娘の携帯電話を壊す。隆太郎との連絡手段を失い、途方に暮れるはつ実。一方、連絡が途絶え「嫌われた」と思い込む隆太郎。誤解によるすれ違いが、取り返しのつかない事件を起こす。
女子高生が恋人に強姦される"デートレイプ"。非常に重いテーマだ。修復できない二人の苦悩を、はつ美の視点で描いていく。隆太郎を「ゆるせない」気持ちと、わずかだが「逢いたい」感情。二つがせめぎあい、はつ実は苦しみにつぶされそうになる。吉倉の熱演が素晴らしい。
隆太郎役の柳楽は、今年公開された「爆心、長崎の空」、「許されざる者」の助演が印象的だった。今回は恋愛に不器用な青年の危うさを表現し、存在感を示している。娘を思うあまり怒りが先走る母役の朝加も、特筆に値する好演だ。
デリケートな少女の揺れを掘り下げ、心情の変化を丁寧に描いた佳作である。
「ゆるせない、逢いたい」(2013年、日本)
監督:金井純一
出演:吉倉あおい、柳楽優弥、新木優子、原扶貴子、中野圭、朝加真由美
2013年11月16日、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。