フランス北部のさびれたリゾート地。パリから美しい母娘がバカンスにやってくる。2人が滞在するのは、独身男のシルヴァンが管理するアパートだ。普段は女性と縁のないシルヴァン。ここぞとばかり、母娘をもてなすのだが――。
夏のバカンスを舞台にした中でも屈指の名作
ビーチではしゃぎ回り、アパートでジェスチャーゲームに興じ、ディスコで夜を明かす。映画はそんな3人の姿をスケッチ風に追っていく。晩夏の淡い光の中、バカンスという期間限定の時間が流れていく。いつか必ず終わりがやってくる。そんな切迫感がかすかににじんだ風景は、ジャック・リヴェット監督の「オルエットの方へ」(71)を彷彿させる。
ストーリー上の焦点となるのは、シルヴァンの母親に対する恋心である。気さくでグラマラスな母親は、不器用で風采の上がらないシルヴァンにとって、ちょっと不釣り合いな相手にも思える。果たして内気なシルヴァンに恋の女神は微笑むのか。
ラストの展開には意表を突かれる。"伏兵"が誘惑者に変身し、恋の不可思議を見せつける。このクライマックスでいよいよあらわになるシルヴァンの純真さ。少年を通り越して、ほとんど乙女のよう。初々しさが愛おしい。
さえない独身男が経験するひと夏のアバンチュール。主人公が美男でも器用でもないところが、独特の魅力となっている。シルヴァンの人物造形には、恐らく演じたヴァンサン・マケーニュ自身の性格が反映されているのだろう。実に愛すべきキャラクターである。
夏のバカンスを舞台にした映画は多い。それだけで1ジャンルを形成するほどだが、屈指の名作といってよいのではないか。メガホンを取ったのは、短編「遭難者」(09)でデビューし、本作が2作目のギヨーム・ブラック。フランスで新人としては異例のロングランヒットを記録し、今後の活躍が期待される。
「女っ気なし」(2011年、フランス)
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー
2013年11月2日、ユーロスペースほかで全国順次公開(「遭難者」同時上映)。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。