1950年代末。女性の花形職業といえば秘書。秘書の能力を測る最大の指標が、タイプライターの早打ちだった。各国、各地方でコンテストが開かれ、優勝者は名声とステイタスを手にした。「タイピスト!」は、そんな時代のフランスを舞台に、ウブな田舎娘が早打ち世界一を目指す姿を、50年代のムードたっぷりに描いている。
ヒロインが負けるはずはない。わかっていても思わずこぶしに力が...!
キュートな笑顔と素朴さが気に入られたか、高倍率の採用試験を突破し、晴れて秘書になったローズ(デボラ・フランソワ)。しかし何をやってもドジばかり。まったく秘書の用をなさずに解雇されかけるが、ある条件を受け入れてクビを免れる。
上司で社長のルイ(ロマン・デュリス)が突きつけた条件。それは早打ち選手権で優勝することだった。かつてスポーツ大会で活躍したルイは、コーチとしてローズを鍛え上げ、二人三脚で栄冠をつかもうと考えたのだ。
がむしゃらな"2本指打法"から合理的な"10本指打法"への転換、ブラインドタッチの習得、難解な文学書の読破、さらにはピアノレッスン、ジョギング......。次々とルイが課す特訓を黙々とこなしていくローズ。レジス・ロワンサル監督は、シルベスター・スタローンの「ロッキー」(76)のような映画を撮りたいと思ったそうだが、まさに"スポ根映画"さながらのトレーニング風景となっている。
もちろん最大の見どころは競技シーンだ。2度目の挑戦で地方大会を制した後、全国大会で前回チャンピオンと大接戦を繰り広げる。ヒロインであるローズが負けるわけはない。分かってはいても、決勝で引き分け、延長戦に持ち込まれる場面では、思わず握りこぶしに力が入る。米ニューヨークに舞台を移した世界大会では、さらなる強豪相手にハイレベルな戦いが展開。興奮は頂点に達する。
もう一つ魅力となっているのが、全編に漂う50年代のムードだ。カラフルなファッションや世相が細部まで映像化され、まるで当時作られた映画を見ているよう。ローズとルイとの間に芽生える不器用でじれったい恋も、いかにもこの時代にふさわしい。
そしてヒロイン役のデボラ・フランソワ。「ある子供」(05)や「譜めくりの女」(06)などと毛色の違う役柄を軽々とこなし、女優としての器の大きさを改めて印象付けた。
「タイピスト!」(2012年、フランス)
監督:レジス・ロワンサル
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ
2013年8月17日、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。