8月のローマ。人々はバカンスに出かけ、街はがらんと静まり返っている。20代のニーナは音楽教師。中国への留学を控え、試験勉強で街に残っていた。学期末の音楽会が終わり、生徒たちにも別れを告げた。秋には新生活が始まる。
「両親が留守の間、犬の面倒をみてくれないか」。親友の頼みを受け、ニーナは郊外の家に滞在することになる。近代的に整備された新都心。白い建物が続く通りは、人影もまばら。すべてが止まり、砂漠のように乾いた街で、ニーナのひと夏が始まる。
ひとり街を漂うニーナの前に、さまざまな人が現れる。ナポリ生まれのデ・ルーカ教授。風変わりな子供の管理人エットレ。犬のオメロ。歌のレッスンをしている少女マルタ。気になる男性チェリストのファブリツィオ。太陽が照りつける夏の街。ニーナと彼らの出会いは、ある時は幻想のように、ある時は夢のように浮かんでは消える。
ニーナは徐々に気付いていく。漠然とした将来への不安。恋愛への望み。社会と人々とのつながり。太陽の白い光。こだまするチェロの響き。夏と街は、彼女に新たな世界を見せる──。
「美しいものを見たい気持ちは麻薬のよう」
「ニーナ ローマの夏休み」は、街と少女を写真のように切り取り、独自の美意識で再構成する。ボーイッシュなニーナの短髪、シンプルでカラフルな衣装。舞台は近代的でどこか無機質な、郊外の新都心。直線的で色のない建物がカンバスになり、ニーナのひと夏がカラフルなロードムービーのように描かれる。
メガホンを取ったのは、イタリアの新鋭女性監督エリザ・フクサス。父で著名建築家のマッシミリアーノ・フクサスの影響か、都市建築への愛着が画面を通して伝わってくる。そのせいか、人物の心情描写が弱い感は否めない。監督も「美を追求した作品。美しいものを見たい気持ちは麻薬のよう。物語に勝ってしまうこともある」と認める。
乾いた静かなローマの夏。監督の美意識に導かれ、しばし空想を疑似体験するのも楽しい。
「ニーナ ローマの夏休み」(2012年、イタリア)
監督:エリザ・フクサス
出演:ディアーヌ・フレーリ、ルカ・マリネッリ、エルネスト・マイエ、ルイジ・カターニ、マリーナ・ロッコ
2013年8月10日、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。