市役所勤めの内気な35歳童貞男と、目の見えない可憐なお嬢様の恋愛を描いた「箱入り息子の恋」。俳優、音楽家、文筆家としてマルチに活動する星野源、映画初主演作だ。監督・脚本は「無防備」(08)でぴあフイルムフェスティバル、釜山国際映画祭でグランプリを受賞した新鋭・市井昌秀。
自宅と職場を往復する毎日の天雫健太郎(星野源)。愛想がなく、趣味は貯金と格闘ゲーム、ペットのカエルだけ。見かねた両親は親同士が婚活する代理見合いに参加。今井家の美しい一人娘・奈穂子(夏帆)との見合いをつかんでくる。彼女の目が見えないとは知らずに。
不器用な恋愛はゆっくりとそれでもたしかに成熟していく
健太郎の日常は退屈極まりない。実家から市役所に出勤し、昼休みは家に帰り母親の作った昼食を食べる。午後は職場に戻って仕事をこなし、終業時間の5時きっかりに退勤。家で待つのは両親とカエルだけ。食事以外は部屋に引きこもり、一人格闘ゲームに没頭する。ところが帰宅途中、大雨でずぶ濡れの女性に傘を差し出し、運命が動き出す。彼女こそ奈穂子だった。
ペットのカエルは、健太郎の分身に見える。ガラスのケースに入れられ、問いかけにも身動きせず、じっとえさを与えられる日々。健太郎も目に見えないバリアを作り、他人との接触を拒み、誰にも心を開かない。ところが、見合いの席で奈穂子の父(大杉蓮)に人格を全否定される。帰宅した健太郎は怒って部屋をめちゃくちゃに破壊。見えないバリアを壊した瞬間だ。これを機に健太郎は吹っ切れたように変わり始める。
やがて奈穂子と交際を始めた健太郎は、彼女の手を引き平坦な道を歩き始める。段差を乗り越え、小高い丘に上がる二人。不器用な恋愛が成就する過程を、視覚的に表現したいい描写だ。しかし、奈穂子の父に交際がばれ、事件が起こる──。
恋愛にまっすぐ過ぎる健太郎。愚直に、痛みながらぶつかっていく姿に感動する。外見と経歴で人を判断する父と違い、健太郎の本質を見抜き、愛を受け入れる奈穂子が美しい。体当たりで演じた星野源、目の見えない難役を演じ切った夏帆。親役の平泉成、森山良子、大杉蓮、黒木瞳ら、ベテラン勢の好演も手伝い、良作に仕上がった。
「箱入り息子の恋」(2013年、日本)
監督:市井昌秀
出演:星野源、夏帆、平泉成、穂のか、栁俊太郎、竹内都子、古舘寛治、森山良子、大杉漣
2013年6月9日、、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
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