遊覧船のデッキにあふれる水着姿の観光客たち。何十人いるのだろう。全員が白人だ。歌って、踊って、海に飛び込む。水しぶきが陽光にきらめく。青い空、白い雲、輝く太陽。夏のバカンス期を迎え、地中海の小島がしばし活気づく。
一方、真っ暗な夜の海で、小さないかだにひしめく難民たち。アフリカから圧政を逃れてやってきた人々だ。現れたボートに向かって、一目散に泳ぎ出す。ボートにたどり着くと、へりにつかまり、必死によじ登ろうとする。しかし、ことごとく撃退されてしまう。
第68回ベネチア国際映画祭では審査員特別賞を受賞
明と暗。白と黒。天国と地獄。対照的な2つのシーンに、映画のテーマが見事に表現されている。南イタリアのシチリア島南方に浮かぶリノーサ島。かつて盛んだった漁業は衰退し、観光業の成否に島の将来がかかっている。そんなリノーサ島にとって、不法難民の流入は最も警戒しなければならないことだった。
とりすがる難民を退けたのは、主人公のフィリッポである。父親を海で亡くし、祖父のエルネストと漁業を続けているが、本土に渡って新生活を始めたいと願う母親のジュリエッタ、漁業に見切りをつけて観光業に転じた叔父のニーノ、そして親しくなった観光客のマウラとの間で価値観が揺れ動き、自分の生き方が定まらない。
フィリッポは、祖父とともに難民の女性を助けたことがあった。法には反するが、人道には適った行為。しかし、そのせいで、祖父は当局から漁船を差し押さえられた。母親もストレスを募らせていた。マウラと夜の海に出たフィリッポが難民を打ち払ったことは、一概に責められるものではない。だが、フィリッポが難民を排除した翌日、海岸にその難民たちが打ち上げられて――。
20歳の若者のひと夏の成長を通して、不法移民や経済格差などイタリアの社会問題を鮮やかに浮かび上がらせた。いかにも頼りなげだった主人公が決然とした行動に出るラストシーンが心を打つ。オープニングの水中撮影から、エンディングの空撮まで、映像の美しさも堪能したい。
「海と大陸」(2011年、イタリア・フランス)
監督:エマヌエーレ・クリアレーゼ
出演:フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキオ、ジュゼッペ・フィオレッロ、ティムニット・T
2013年4月6日、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。